ヨーロッパ心臓病学会(ESC)
2023年のヨーロッパ心臓病学会(ESC)の学術集会が、オランダの首都アムステルダムで8月25日から28日まで開催さました。私も2006年から2018年までは毎年、長崎みなとメディカルセンターでの臨床研究(主として急性心筋梗塞関連)を同学会で発表してきました。大げさかもしれませんが、世界で勝負することは大切、と思ったためです。最初の頃の発表者は私ひとりでしたが、徐々に後輩の医師たちも発表してくれるようになりました。2013年のアムステルダムでの学術集会にも参加した経験があり、アムステルダムに関しては、運河沿いに直立ではなく、ややはすかいに立つ2-3階建ての家屋、運河そのものに浮かぶ家、アンネ・フランクが隠れ住んだ屋根裏部屋に通じる急勾配の狭い階段、毎日の学会の終了後に必ず飲みほした赤ワイン1本、なぜかおいしかったイタリア料理などが印象に残っています。そのほか、アムステルダムの美術館に驚いたことには、出島の模型が展示されており(図1)、長崎とオランダとの過去の深いつながりを示唆する模型でした。ヨーロッパ心臓病学会の学術集会は首都、またはそれに準じる大都市で開催されるのが常であり、アムステルダムの他にもミュンヘン、ストックホルム、パリ、バルセロナ、ローマ、ロンドンを私も訪れました。よって、観光にも恵まれていたはず、と見る向きがあり、実際、観光も少しはしましたが、観光よりも学会での新たな知見の獲得、学びの方がはるかにおもしろかったため(本当です)、学会期間は毎日、真面目に、慣れない土地の地下鉄、電車などを使って、足繁く会場まで通いました。
図1:アムステルダムの美術館での出島の模型
ヨーロッパ心臓病学会の学術集会は心臓病関連の学会の中でも参加人数が最大規模を誇り、新型コロナウイルスのパンデミックの前の参加人数は3万人を突破していました。特に午前中は広い参加受付会場にいろんな国、いろんな髪型と肌の色の人がひしめき合っていて(図2に2013年のアムステルダムの会場での様子を示しています)、熱気に圧倒されると同時にこんなにたくさんの人が心臓病の診療に貢献しようと頑張っているのだな、というある種の感慨を覚えざるを得ませんでした。
図2:受付会場での人波; ESC 2013/アムステルダム
心臓病の新しい治療の紹介、ガイドラインに新たな1ページを付け加えるような、あるいは書き換えを迫るような質の高い発表が多く、特に瞠目すべき研究は発表とほぼ同時に臨床医学の学術雑誌の中で最高峰と目されるニューランドジャーナルオブメディシン(NEJM:The New England Journal of Medicine)で公表されることもこの学会の特徴です。今年も研究発表の幾つかが同時にNEJMに掲載されており、その中で私が驚いたり、その手があったのか、と思ったり、よくぞここまでと感動したりした論文の幾つかを次回よりご紹介したいと思います。