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発作性心房細動に対する最初の治療選択-カテーテルアブレーション vs.抗不整脈薬-

[2023.01.24]

心房細動という不整脈の名前を耳にする機会は多いのではないでしょうか?その特徴は1.心拍の間隔がばらばら; 2.頻脈になりやすい; 3.左心房に血栓を作り、脳梗塞の原因となりえる(心原性脳塞栓症)などの特徴があり、内科医が遭遇する機会の多い不整脈です。もともと弁膜症、心筋症、陳旧性心筋梗塞などの心疾患がある人に合併しやすい不整脈ですが、心疾患がなくても、肥満、高血圧、喫煙、アルコール過飲、閉塞性睡眠時無呼吸などが心房細動の出現リスクを増大させます。また、高齢になるにしたがって、出現しやすい不整脈でもあります。

 

実は私も1回だけ心房細動の経験があり、それは1993年の球史に残る日本シリーズと謳われたヤクルト・西武戦のテレビ観戦中のことでした。たぶんあまりの感情の高まりが心房細動を誘発させたにちがいありません。幸いこの時は15分以内で心房細動から正常なリズム(洞調律)に戻りましたが、発作中は軽い胸部圧迫感と若干のふらつきを伴っていました。私の場合のように7日以内にもと心臓のリズムに戻る心房細動を発作性心房細動といいます。それに対して、7日を超えて持続する心房細動を持続性心房細動といっています。

 

一般的な心房細動の経過としては、発作性心房細動から始まり、徐々に発作の頻度が増加していき、持続性心房細動へ、さらには永続性心房細動(正常なリズムへ復帰させることが不可能な心房細動)へと進展していきます。心房細動は代表的な心不全の誘発または増悪因子であり、何とかこの自然経過を停止させることができれば、患者さんの予後も好転することが予測されます。

 

心房細動に対するカテーテル治療(カテーテルアブレーション)が発作性心房細動の経過を好転させるのではないか、という仮説の許に行われた臨床試験がEARLY-AF試験です。この研究では発作性心房細動を認めた患者さんを対象とし、その平均年齢は約60歳で、心機能は比較的に保たれています。そして、対象患者さんをカテーテルアブレーション群:154名と抗不整脈薬群:149名に分け、3年間の経過観察を行っています。なお、この研究でのカテーテルアブレーションの方法は、心房細動の異常な電気的起源のひとつと考えられる肺静脈と左心房の接合部を冷凍凝固することにより、異常な電気的な信号が左心房に侵入できなくする方法を採用しています。

 

結果は明快でした。3年間での持続性心房細動への出現率はカテーテルアブレーション群:1.9%、抗不整脈群:7.4%であり、カテーテルアブレーションは抗不整脈薬に比べて、持続性心房細動への進展リスクを75%ほど減らすことができたのです。また、30秒以内の頻脈性心房性不整脈(心房細動、心房粗動、心房頻拍)の出現および入院のリスクに関しても、アブレーションが薬物治療よりも優れているという結果でした。

 

さしたる心疾患がない発作性心房細動の患者さんに対しては、最初は抗不整脈薬を投与する選択する医師が多いと思われ、私もそのひとりです。一方、この研究はカテーテルアブレーションが発作性心房細動から持続性心房細動の進展過程を抑制、または遅らせることができることを示しており、心機能が保たれた50-70歳くらいの患者さんに関しては、最初からカテーテルアブレーションが第一選択となりえることを示唆しています。

 

参考文献

N Engl J Med 2023; 388:105-116.

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