閉塞性肥大型心筋症の新たな治療ー心筋ミオシン阻害薬ー
医学が進歩は速くなるばかりで、私が専門とする心臓病に関しても、薬物治療とカテーテル治療の両面で、新たな治療方法が次々と導入されています。感覚的には以前の5年が現在の1年でしょうか。治療の最前線に常にアンテナを張っておかないと、時代遅れの医師になりかねません。今回は肥大型心筋症に新たに導入された薬物治療に焦点を当てたいと思います。
肥大型心筋症とは?:血圧がコントロールされていない高血圧や重度の大動脈弁狭窄症では心肥大が、起こってきます。このような心肥大を起こしえる原因疾患がなく、心筋が一次的に肥大する病気が肥大型心筋症です。家族内発症が多い病気でもあります。心肥大の基準は最大の心筋の厚さ:15 mm以上、家族歴がある例での心筋の厚さ:13mm以上が、肥大型心筋症を疑う心肥大の標準的な基準とされています。
肥大型心筋症のタイプと症状:肥大型心筋症は心臓の収縮に伴って心臓の出口(左室流出路と呼びます)に狭窄を生じる閉塞性肥大型心筋症と非閉塞性肥大型心筋症に大別されます。閉塞性肥大型心筋症では心筋の過収縮と僧帽弁の前尖(僧帽弁は左心房と左心室を仕切る弁で、前尖は胸壁に近い方の弁です)が収縮期に心室中隔(左心室と右心室を仕切る心筋です)に接することにより、心臓の出口に狭窄をもたらします。本来は大動脈と左心室の収縮期の血圧は等しいのですが、出口での狭窄のために狭窄部位の前後での血圧の差(圧較差)が生まれてきます。労作、循環血液量の減少→心内腔の縮小、血管拡張は狭窄を助長する要因です。
労作時息切れ、胸痛、眼前暗黒感、および失神が主な症状です。これらの症状は閉塞性肥大型心筋症に伴うことが多く、非閉塞性肥大型心筋症では無症状であることも少なくありません。心房細動が閉塞性、非閉塞性を問わず、合併しやすい不整脈です。
従来の治療:症状を認める閉塞性肥大型心筋症ではカルシウム拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミル)とβブロッカーが第一選択薬(治療の最初の候補)となります。心筋の過収縮の抑制と徐脈による心臓の容量の増大が作用機序となります。薬物治療でも症状があり、心臓の出口での圧較差:50 mmHg以上の例では、手術またはカテーテル治療の適応があります。
心筋ミオシン阻害薬・新たな治療:私が医師になってから、36年間、閉塞性肥大型心筋症の薬物治療の進歩は乏しいものでした。従来の治療の限界点は、そもそも左室流出路での狭窄の低減効果が小さく、その結果として、症状の改善効果も小さいことです。
肥大型心筋症の本質に迫る画期的な薬、それは心筋ミオシン阻害薬です。心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテン(商品名:カムザイオス)の臨床治験の結果が2020年に初めて報告され、引き続き2024年にアフィカムテンの臨床治験の結果が報告されています。これらの薬の作用点を説明する前に心筋が収縮する機序を要約して説明します。心筋の収縮の最小単位はサルコメアと呼ばれ、主として太いミオシンフィラメントと細いアクチンフィラメントから成り立っています。収縮の開始時にはミオシンの頭部がアクチンに接合し、アクチンを牽引することにより長さが短縮する→収縮します。図1に理解しやすい図をネットから引用していますので、ご参照下さい。
図1:心筋の収縮機序
《循環器の理解に役立つ生理学》心筋の興奮と収縮のしくみ | 看護roo![カンゴルー]より引用
閉塞性肥大型心筋症ではミオシンフィラメントとアクチンフィラメントの接合部の個数が多いため、心筋の過収縮と心臓の出口での狭窄をもたらします。ミオシン阻害薬はミオシンとアクチンの接合個数を減少させ、結果として次のような臨床効果が得られました。
- 最大酸素摂取量を指標とする運動耐用能が改善する。具体的には今までは200mの平道歩行で息切れが生じていたが、治療により250mまで歩けるようになったなど。
- 心臓の出口での狭窄が、確実に軽減される。バルサルバ負荷という方法で得られる心臓の出口での圧較差が、-50mmHg前後、低下する。これは驚くべき効果。
- 心不全の指標であるNT-pro BNPが治療前と比べて、顕著に低下する(-80%)。
日本で保険適応がある心筋ミオシン阻害薬は、マバカムテンです。現在でも第一選択薬はβブロッカー、ジルチアゼム、ベラパミルであり、これらの薬の投与にもかかわらず、効果の乏しい患者さんがマバカムテンの適応となります。この治療段階の順番は、今後の臨床経験の蓄積により、変更される可能性もあります。また、ミオシン阻害薬は頻度は少ないながらも心収縮を過度に抑制するリスクがあるため(頻度:5.7%)、その導入と維持量の決定に際しては、少なくとも日本循環器学会認定循環器研修施設であることが条件となっています。
参考文献
- Lancet 2020;396:759-769
- N Engl J Med 2024;390:1849-1861
