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健康な成人でのLDLコレステロールの最適値は?

[2022.01.31]

LDLコレステロールは動脈硬化を促進するコレステロールで、悪玉コレステロールとも呼ばれています。そして、心筋梗塞や虚血性脳血管障害(脳梗塞)をすでに経験している方、および糖尿病などの心血管疾患の発症リスクの高い方では、積極的なコレステロールの低下療法が生命予後を改善することが確立しています。一方、高コレステロール血症の他に危険因子がなく、心血管疾患の既往のない方に対して、どれくらいのLDLコレステロール値から治療介入するのか、ということは、けっこう難しい問題です。なぜなら検診などでLDLコレステロールが高値(140mg/dL)以上を示す方は、けっこう多いためです。

 

コペンハーゲンに住む108,243人の比較的に健康な住人を対象に、最も死亡リスクの低い、すなわち長生きが可能なLDLコレステロール値を検討した研究があります(1)。対象者の年齢の中央値:58歳で、糖尿病、心血管疾患、がんの合併頻度は、それぞれ4%、9%、7%と比較的に低率でした。また、コレステロールの薬を服用している方の頻度は12%でした。

 

9.4年の経過観察中に、11,376人の方が亡くなっています。死亡リスクが最も低いコレステロール値は140 mg/dLでした。図に示しますようにこの値より高くても、低くても死亡リスクは増大するU字型の曲線を描きました。LDLコレステロール値:132-154 mg/dLの方を基準にすると、LDLコレステロール:70mg/dL未満の方は1.25倍、189 mg/dL以上の方は1.15倍の死亡リスクの増大を認めています。

 

薬を内服していないのにLDL-コレステロール値<70 mg/dLの人はもともと重症な病気を抱えていて(進行したがんや重症心不全など)、低コレステロール血症が原因というよりも、もともとあった病気のために亡くなりやすいのではないか、という考え方が以前よりありました。しかし、この研究では心血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患の方々を除外しても、低LDLコレステロール血症の人の死亡リスクが高くなる、という事実は不変でした。

 

一方、LDLコレステロール値が高ければ高いほど、心筋梗塞を発症するリスクは増大し、LDLコレステロールと心筋梗塞発症との密接な関係が改めて示されました。

 

先述したように、心血管疾患の発症リスクが高い人に対するコレステロールの低下療法が、総死亡と心血管死のリスクを低下させることはすでに明らかとなっています(2)。一方、合併疾患が少ない比較的な健康な成人では、140mg/dl前後のLDLコレステロール値の方が最も健康に過ごしているという大変、興味深い結果でした。

 

私の場合、心血管疾患の発症リスクの低い高コレステロール血症の治療に関しては、LDLコレステロール:150-199 mg/dlの方には2ヶ月間、食事療法を行っていただき、薬物治療を開始するかどうかを考えるようにしています。その中でLDLコレステロール値:180-199 mg/dLの方には薬物治療が必要となるかもしれないことを予め伝えるようにしています。200 mg/dL以上の高度な高LDL血症の方に関しては、食事療法と平行して薬物治療も開始することが多いようです。甲状腺機能低下症やネフローゼ症候群によりコレステロール値が極めて高くなることもあるため、二次性の高コレステロール血症の鑑別も重要です。

 

薬物治療の開始にあたっては、患者さんの考え、気持ちも重要ですので、治療目標に達していなくても、もう少し食事療法で様子をみたい、という方には、さらに1-2月ほど食事療法のみの期間を延長することもあります。図2の上段と中段はコレステロールを上げやすい食品を示していますので、ご参考になれば幸いです。

 

参考文献

  1. 2021 Feb 12;372:n422. doi: 10.1136/bmj.n422
  2. JAMA 2018;319:1566-1579

 

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