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心臓病の救急医療

[2020.11.23]

開業医となってからはなじみが薄くなりましたが、心臓病の救急は勤務医の頃に力を傾注した分野のひとつです。今回は心臓病の救急医療に関して、その流れ、心臓病の救急疾患にならないための方法に関して、昨日のエピソードも含めて、お話ししたいと思います。

 

心臓病の救急は生命の危機と関連することが多く、まさしく時間とのたたかいです。すなわち、迅速に診断し、できるだけ早期に治療を開始することが求められます。“胸痛、呼吸困難、失神”が心臓病の救急疾患の主な症状です。シンプルに述べると急性心筋梗塞、大動脈解離、肺塞栓症が最初に医師が鑑別を試みる心臓救急の病気です。私の経験では胸痛または背部痛は急性心筋梗塞例の91%、大動脈解離例の83%でそれぞれ認められました。肺塞栓症では突然の呼吸困難を83%の方で認めており、他の2疾患とは異なる特徴を示しています。

 

急性心筋梗塞の救急治療の流れを説明してみましょう。搬送される前に他の医療機関あるいは救急隊がもたらす情報のうちバイタルサイン、特に血圧の値が最も気になる情報です。例えば収縮期血圧が80 mmHg未満であれば、ショック状態であることが予想され緊張が走ります。四肢の冷汗や意識障害を伴っているようでしたら、さらに緊張がたかまります。心原性ショックの救命のためには間髪をいれない治療の段取りが必要で、また複数の医師、看護師、臨床工学士などの参加が不可欠なためです。現在、新型コロナウイルス感染症の重症呼吸不全の治療で注目されているECMOは、旧くから心原性ショックの治療に用いられている補助循環装置です。

 

患者さんが到着したらバイタルサイン測定(血圧、心拍数、呼吸数など)、心電図モニター、酸素飽和度の測定と必要があれば酸素投与、12誘導心電図記録、2か所からの点滴ルートの確保が、並行しながら10分以内に行う処置となります。患者さんの具合が悪い時に詳細な病歴聴取は困難で、かつ、時間もかかるため、患者さんまたはつきそってきた人に症状、その出現時刻、現在、治療中の病気などを簡潔に尋ねます。

 

検査のうち最も有用な検査は心電図です。1枚の心電図で急性心筋梗塞と診断され、カテーテル治療が開始となる場合はしばしばあります。最初の心電図、あるいは心エコーを行っても診断に至らない場合は、15, 30, 60分後と繰り返し心電図を記録し、その間に採血の結果を待ち、大動脈解離や肺塞栓症が疑われる場合は、CT検査まで行う流れとなります。

 

心臓病の救急疾患にならないための方法:その方法には特効的なものはありません。過食をさける、減塩、体重増加に気を配り食事の量に気を配る、週4回以上のwalkingなどの運動、および薬物治療です。例えば高血圧に対する降圧薬の内服は、症状がないからといって不必要なわけではなく(実際、高血圧に伴う症状は乏しいことが多いのです)、症例の不幸な出来事を未然に防止するために内服が必要、と御理解いただければ幸いです。

 

昨日、年配のかたが動悸を主訴に歩いて受診されました。心電図記録を行うと急性心筋梗塞(またはたこつぼ型心筋症)を疑う心電図であり、驚きました。動悸は心筋梗塞ではあまりみられない症状であるためです。患者さんは近隣の病院に連絡し、迅速な治療を行って頂きました。心臓病救急の奥は深い、と改めて認識させられました。

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