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慢性浮腫に対する弾性ストッキングの効果

[2021.08.31]

前回は”むくみ(浮腫)”の機序と関連する病気に関して、概説しました。一方、さしたる病気がないにも関わらず、下肢のむくみが持続する慢性浮腫の患者さんがいます。長時間の立ち仕事に従事している人、肥満の人に多い印象です。下肢の慢性浮腫は蜂窩織炎(皮下組織の感染症)の危険因子です。慢性浮腫が細菌が繁殖しやすい母地(栄養源)となること、リンパ管の機能障害により細菌感染に対する免疫応答が阻害される事、および感染に対する皮膚のバリア機能が損なわれているため、細菌が侵入しやすくなることなどが慢性浮腫が蜂窩織炎を合併しやすい理由として、考えられています。

 

浮腫の原因となる疾患が明らかである場合は、その病気または病態の治療が優先されます。原因が明らかではない慢性浮腫の患者さんに一般的にすすめられる治療法は弾性ストッキングの着用です。弾性ストッキングは足首から膝上、または大腿部までをカバーします。足首の圧は膝上(または大腿部)の圧より高くなるように設計されているため、圧勾配により余分な水分(むくみ)を押し出す効果を持っています。極めて一般的な治療ですが、今まではその治療効果に関する明確な根拠を欠いていました。その効果を始めて科学的に明らかにした論文(N Engl J Med 2020; 383:630-639を御紹介します。

 

その論文では過去2年間に2回以上の蜂窩織炎を同一下肢に発症した患者さんを対象としています。弾性ストッキング着用群:41例と非着用群:43例で、蜂窩織炎の発症率の差異を検討しています。殆どの弾性ストッキングは膝上までをカバーするタイプでした。結果に関して、蜂窩織炎の発症率は弾性ストッキング着用群:15%、非着用群:40%で、弾性ストッキングにより蜂窩織炎の発症は明らかに抑制することができました。また、1年後の下肢のボリュームも着用群では181mLの減少を示したのに対して、非着用群では60mLの増加を示しました。このことは弾性ストッキングにより浮腫そのものも改善していることを示しています。

 

この論文は今まで当たり前のように行う一方で、科学的な理由づけを欠いていた治療法に関して、確かな根拠を与えたという点で画期的であり、眼から鱗の感があります。なお、弾性ストッキングはまさしく蜂窩織炎を発症している場合、潰瘍形成などの血流障害が疑われる場合は禁忌となります。慢性浮腫の患者さんはまずは医療機関を受診して、むくみの原因となる病気がないかを精査してもらい(病気がある場合はその病気に即した治療が必要となります)、病気がないようでしたら、弾性ストッキングの装着を考慮するという流れになるでしょう。

 

参考文献

N Engl J Med 2020; 383:630-639

 

参考URL:リンパ浮腫に興味のある方は、日本リンパ浮腫学会が提供する“リンパ浮腫の考え方と治療の基本”というページが詳細で、かつ、分かりやすいので、訪れてみて下さい。

リンパ浮腫の考え方と治療の基本 | 一般社団法人 日本リンパ浮腫学会 (js-lymphedema.org)

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