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慢性腎臓病に糖尿病の薬が有効?ーSGLT2阻害薬ー

[2020.10.26]

腎臓は水分量の調節、老廃物の排泄、ナトリウムやカリウムなどの電解質の調節などに重要な役割を果たしています。腎機能を評価する指標に換算糸球体濾過量(eGFR)があります。eGFRは糸球体(注1)が1分間にどれくらいの血液をろ過して、尿を作れるかという指標です。慢性腎臓病とはeGFRが低下し、蛋白尿を認める病態で、心血管疾患を発症するリスク、およびも心臓病を増悪させるリスク(心不全の発症、心血管死など)があることが知られています。

 

一方、慢性腎臓病に対して、腎保護効果が証明されている薬は2種類しかありません。それらは、降圧薬としても用いられるACE阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬で、それも主として慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者でその効果が確かめられています。

 

今回、糖尿病の薬であるSGLT2阻害薬(注2)が、糖尿病の有無を問わず慢性腎臓病患者さんの予後を改善することが報告されましたので、御紹介致します。

 

対象は4304人の慢性腎臓病の患者さんで、SGLT2阻害薬のひとつであるダパグリフロジン内服群:2152例を非内服例:2152例に分けられています。67.6%の患者さんが糖尿病を合併しています。すでに腎保護効果が明らかとなっているACE阻害薬の内服例:31.5%、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の内服例:66.7%と極めて高率に両薬剤を内服しています。

経過観察期間の中央値:2.4年です。

 

結果は明らかなものでした。ベースラインからのeGFRの50%以上の低下、腎機能の廃絶(血液透析や腎移植の導入など)、および腎臓病または心血管病による死亡のいずれかが発生する頻度はダパグリフロジン内服群:9.2%, 非内服群:14.5%で、ダパグリフロジンはこれらの発症リスクを39%低下させました。そして、この効果は糖尿病患者、非糖尿病患者でともに認められています。また、腎臓病、心血管病を問わず、何らかの病気で亡くなる頻度はダパグリフロジン内服群:4.7%, 非内服群:6.8%であり、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンは慢性腎臓病患者の生命予後そのものを改善させました。

 

SGLT2阻害薬の腎保護効果は糖尿病の患者さんに対して証明されていましたが、非糖尿病の患者さんに対しても証明された点がこの論文の画期的なところです。また、同様に腎保護効果が証明されているACE阻害薬、アンジテンシンⅡ受容体拮抗薬を内服している患者さんに対して投与してもさらなる腎保護効果が期待できる点も重要でしょう。

 

注意点としてSGLT2阻害薬は現時点では糖尿病治療薬としてしか承認されていないため、非糖尿病患者さんに対しては投与することができません。今後さらにエビデンスが蓄積され、非糖尿病の患者さんに対しても投与する事ができる日がくれば、と期待しています。

 

(注1)糸球体:血液中の老廃物や塩分をろ過し、尿として体の外に排出する働きをしています。

(注2)SGLT2阻害薬:近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制し、尿への糖の排泄を促すことで、血糖値を低下させます。

 

参考文献

  1. N Engl J Med 2020; 383:1436-1446.
  2. N Engl J Med 2019; 380:2295-2306.

 

参考URL

https://jsn.or.jp/global/general/_3227.php

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