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新たな合剤の予後改善効果ー欧州からの報告ー

[2022.10.25]

御高齢の患者さんは複数の病気を抱えていることが多く、そのため服薬している薬の種類が多くなりがちです。薬の種類、服薬方法が煩雑になると、どうしても飲み忘れが多くなり、薬の効果が十分に発揮されず、健康被害のリスク(病気の再発など)を高めてしまいます。服薬する種類を少なくする方法のひとつとして合剤がります。合剤は1錠のうちに異なる種類の薬を含み、降圧薬2種類、糖尿病薬2種類などの組み合わせが代表的です。

 

こんな合剤があったらいいのに、と以前から私が思っていた合剤は、複数の病気に対する合剤です。先に例示しましたように、現在の合剤は、単一の病気に対する合剤が主流であり、私が知る限り複数の病気に対する合剤は、コレステロール降下薬と降圧薬を組みあわせた合剤があるのみです。もう一つは、アスピリンとアスピリンによる胃腸障害を軽減する薬の合剤がありますが、これはアスピリンの副作用防止のための合剤です。

 

最近、私の願いを叶えるような合剤の良好な治験結果が欧州からなされていましたので、御紹介しましょう。対象は6月以内に急性心筋梗塞を経験した2499人の患者さんです。心筋梗塞の薬物治療も抗血小板薬、もともと抱えていた危険因子=生活習慣病に対する個別の治療、心不全があれば心保護薬と多岐にわたり、どうしても薬の種類が多くなってしまいます。この報告では新たな合剤(コレステロール降下薬であるスタチン、心保護作用と降圧効果を併せ持つACE阻害薬、抗血栓効果のあるアスピリン)の効果を通常の個別治療(すなわち高血圧があれば降圧薬、LDLコレステロールが目標値より高ければコレステロール降下薬など)の効果と比較しています。効果の指標は心血管死+非致死的な心筋梗塞+非致死的な虚血性脳卒中+緊急血行再建の頻度です。また、対象となった患者さんの平均年齢:76歳と高齢である点もこの報告の特徴のひとつです。

 

対象患者さん:2499人を新たな合剤群:1237人と標準的な個別治療群:1229人にランダムに分けて、約3年間の経過観察を行っています。その間の先の述べた指標(心血管死+非致死的な心筋梗塞+非致死的な虚血性脳卒中+緊急血行再建)の頻度は新たな合剤群:9.5%、個別治療群:12.7%であり、新たな合剤による予後の改善効果は明らかでした。心血管死に焦点をあてると、新たな合剤は個別治療に対して、死亡リスクを33%も低下させています。

 

合剤を用いるだけで。これだけの予後の相違が生まれることは、私にとっても大きな驚きでした。研究者らはその理由の一つとして、合剤を用いることで、内服の確実性が増したこと、すなわち飲み忘れの頻度が減った事を挙げています。もうひとつの理由として、この3種類の薬からなる合剤は、それぞれの異なる治療の目標があり、その多面的な効果が予後の改善に寄与していたのではないか、と予測しています。眼から鱗の合剤なので、日本でも処方できる日がきたらいいな、と思っています。

 

参考文献

New Engl J Med 2022:387:967-977

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