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気づかれにくい病気ー下肢閉塞性動脈硬化症ー

[2022.03.14]

下肢閉塞性動脈硬化症―下肢動脈が狭窄ないし閉塞することにより、下肢の血流低下をきたす病気で、患者さんがそれとは気づきにくい病気の一つです。主な症状は歩くと足がだるくなる、あるいは痛くなるなどです。そのため、患者さんが腰の病気と判断されたり、また、年齢のためかな、と考えがちなため、気づきにくい病気となっています。血流低下がより高度となると安静にしていても下肢が痛んだり、さらに進行すると足の皮膚に潰瘍が形成されたりします。一方、下肢血流低下があるにもかかわらず、無症状の人もいます。必ずしも下肢虚血が軽いために無症状というわけではないため、医師も特に後述する危険因子(下肢虚血になりやすい因子)を抱えている人に関しては、注意深く診察する必要があります。

 

喫煙と糖尿病が最も強力な下肢閉塞性動脈硬化症の危険因子です。その他の危険因子として、年齢:65歳以上と腎機能低下などがあります。一方、下肢閉塞性動脈硬化症に合併しやすい病気として、狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患および脳血管疾患があります。

 

下肢閉塞性動脈硬化症を疑ったら、最初に私は下肢動脈の触診をします。触診する部位は浅大腿動脈、膝窩動脈、後頸骨動脈と足背動脈で、各部位での拍動の強さや拍動の左右差を知ることにより、どの領域に狭窄があるかをおよそ知ることができます(図1参照)。

 

足関節上腕血圧比(ABI)は下肢の血流低下の程度を知るために、繁用される検査です。

ABIの計算式:足(足関節)の収縮期血圧/上肢の収縮期血圧

通常は足の血圧の方が、上肢の血圧より高いため、正常ではABI>1.0となります。ABI:0.9以下の場合は、血流を低下させるに十分な狭窄が下肢動脈にあることを示唆しています。ABIの値により病気の重症度も評価され、軽症:0.71-0.90, 中等症:0.51-0.70, 重症:0.50以下です。また、運動負荷試験を併用することにより、患者さんが足の痛みを訴えるまでの歩行距離や、最大の歩行距離(痛みのために歩行を中止しなければならない距離)を評価することもできます。狭窄のある場所や狭窄の程度の正確な評価は画像診断によって行われます。下肢動脈エコー、造影CT、およびMRIが代表的な画像診断法です。

 

治療の目的の一つは下肢閉塞性動脈硬化症に合併しやすい心血管疾患の発症または再発の予防、歩行距離の延長、および下肢の温存(切断の憂き目にならないようにする)ことです。喫煙している人は即刻、禁煙しないと未来が暗いものになります。高血圧、高コレステロール血症、糖尿病のそれぞれのコントロールも重要です。

 

歩行距離と歩行時間を延長する方法に関して。治療の第一選択は運動療法です。運動療法を行うに当たっては、最初に運動療法を行う上での注意点や自分に適した運動強度と時間を医師からアドバイスしてもらって下さい。具体的には週に3回以上、1回20-30分前後の歩行は、かりに安定型の冠動脈疾患(狭心症、陳旧性心筋梗塞)を合併していても、殆どの人にとって実行可能な運動強度と思います。

 

薬物治療と運動療法を行っても症状が強くて苦痛な場合、日常生活にかなり影響がる場合は、血行再建(カテーテル治療や手術)の」適応もあります。図2には右総腸骨動脈に対するステント留置前後の血管造影とABIの改善を示しています。

 

改めて、歩いていて足が痛くなる、足がだるい、足が冷たいなどの症状がある方は(概ね50歳以上)、医師に相談したほうがいいでしょう。

 

参考文献

N Engl J Med 2016; 374:861-71

参考URL

JCS2022_Azuma.pdf (j-circ.or.jp)

 

図1:下肢動脈の各部位の走行と名称

 

図2:外腸骨動脈に対するカテーテル治療

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