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治療抵抗性心室性不整脈を合併した心停止例に対するECMOの効果

[2023.02.07]

ECMOとはExtraCorporeal Membrane Oxygenation:体外式膜型人工肺という呼吸と循環をサポートする医療機械のことです。経皮的心肺補助法(PCPS)とも呼ばれます。図にECMOの回路を示しています。患者さんの不足した心拍出量を補う効果と低酸素血症の改善効果を期待することができます。右心房より静脈血を脱血し、それを人工肺により酸素化したうえで、動脈に送血する仕組みです。心臓病の領域では通常の薬物治療、人工呼吸、およびカテーテル治療では救命困難と思われる超重症例に対して、この治療が導入されます。具体的には1.目撃のある心停止例で、治療抵抗性の心室細動または心室頻拍を伴う例;2.心原性ショックを伴う急性心筋梗塞例; 3.劇症型急性心筋炎; 4.広範囲肺塞栓症などです。

 

おそらく循環器救急に携わった経験のある循環器専門医でしたら、ECMOは心臓病の最重症例の救命に確実に寄与していると考えていると思います。しかしながら、それに疑問符を投げかけるような臨床研究がありましたので、御紹介しましょう(1)。

 

対象は先に述べた1に属する患者さん、すなわち目撃のある心停止例で、電気的除細動、薬物治療、人工呼吸にもかかわらず、病院到着後も15分以上、心拍が再開できなかった人です。そしてECMO施行群:70例と非施行群:64例の間で、生命予後を比較しています。

 

結果は全く意外なものでした。心拍再開の頻度はECMO施行群:26%、非施行群:31%と差異を認めず、脳障害の程度を問わず退院できた頻度は両群ともに20%でした。また、この研究の主眼とした発症後30日の時点での脳障害が軽度(少なくとも日常生活に介助がいらないレベル)で、生存している人の頻度はECMO施行群:20%、非施行群:16%とほぼ同等でした。

 

もちろんこの研究だけで、治療抵抗性の心室性不整脈を伴う心停止例に対するECMOの効果がない、と即断することはできないでしょう。事実、30例とより少数例ですが、ECMOの効果を認めた研究もあります(2)。心臓病の領域でのECMOによる治療は、日本で積極的に開始と普及がなされ、近年、欧米でも注目されてきた歴史があります。また、この治療は高度な熟練とチーム(医師、看護師、臨床工学技士など)として完成された実力が必要です。お家元ともいえる日本からより質の高い臨床研究が生みだされることを期待したい処です。

 

参考文献

  1. N Engl J Med 2023; 388:299-309.
  2. Lancet 2020; 396:1807-1816

図:ECMO回路

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