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睡眠時無呼吸症候群と心臓病ーある出会いについてー

[2020.03.15]

医師としての仕事のあり方を決定づけるような患者さんとの出会いーそんな私の経験を御紹介したいと思います。

 

患者さんは労作性狭心症で、当時、54歳、男性の方です。3本ある冠動脈(心臓を養う血管)のうち最も重要な1本が90%狭窄で、他の1本が完全閉塞であったため、他院にて冠動脈バイパス手術を施行して頂きました。ところが、手術後のモニター心電図にて心房細動という不整脈が頻発し、最大6秒の心停止を認めたため、ペースメーカーが必要ではないかということで、私が勤務していた長崎みなとメディカルセンター(旧長崎市立市民病院)へと転院してこられました。

 

患者さんは高度の肥満で、いびきも高度で、妻による無呼吸の目撃もあったため、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断と重症度の判定のために、睡眠ポリグラフィー検査を行いました。SASの診断と重症度の指標として、無呼吸低呼吸指数(AHI)という指標があり、それは睡眠1h当たりの無呼吸と低呼吸の回数の総和です。正常は5回/時間未満で、重症の無呼吸は30回/時間以上です。睡眠ポリグラフィーの結果、無呼吸低呼吸指数=84回/時間と高度な閉塞性睡眠時無呼吸(睡眠中の気道閉塞のために、呼吸運動はあるけれども換気が得られない病態)を認めました。そのため、睡眠中の気道閉塞を予防するため、CPAP治療(注1)を行った処、驚くべき結果を認めたのです。それを図に示します。

 

CPAPの効果により無呼吸低呼吸指数は84回/時間より1.8回/時間と正常化しました。そして、1日に30回も出現していた心房細動は、無呼吸改善後は全く認められなくなり、同時に心停止も認められなくなったのです。CPAP治療を継続することとし、ペースメーカー植え込みを行うことなく患者さんは無事に退院していきました。

 

当時、睡眠時無呼吸症候群に関して交通事故のリスク因子程度の認識しかなかった私に対して、睡眠時無呼吸症候群と心臓病との密接な関りを教えてくれた貴重な経験でした。現在では閉塞性睡眠時無呼吸がある方では、心房細動を合併するリスクが極めて高いことが明らかにされています。それだけではなく閉塞性睡眠時無呼吸は心筋梗塞、突然死、脳卒中の危険因子であることも分かってきています。勤務医の頃、循環器救急とともに睡眠時無呼吸の診療を重要な柱の一つと位置づけていましたが、クリニックを開院してからも大切な診療の柱としています。

 

3年後、飲み会の帰りに患者さんと銅座で偶然にお会いしました。CPAP治療はかかりつけの先生のところで継続しており、胸痛発作もなく、お元気にされていました。これから飲みにいきませんか、とお誘いを受けましたが、すでに午前1時を回っており、丁重にお断りをしました。今ではちょっと残念な気がしています。

 

CPAP治療(注1):気道に圧をかけることにより、気道の閉塞を予防する治療方法です。閉塞性睡眠時無呼吸の治療のスタンダードです。

 

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