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院外心停止と緊急冠動脈造影

[2022.07.18]

急性心筋梗塞は突然の心停止の主要な原因です。心臓病が原因となった心停止のうち急性心筋梗塞などの急性冠症候群の比率は60%以上とされています。急性心筋梗塞の治療の根幹は、できるだけ早く血栓により閉塞した血管(冠動脈)をカテーテル治療により再開通させることです。再開通により、心筋が壊れていく過程を食い止めることができるため、心機能の低下の程度が小さくなり、結果として救命率が向上します。

 

心電図は急性心筋梗塞の診断で極めて重要であり、心電図所見からST上昇型と非ST上昇型に区別されます。図に1心拍の心電図を示していますが、ST部分は鋭い振れのQRS波となだらかなT波の間の部分です。ST上昇は急性心筋梗塞の決め手ともいえる心電図所見であり、即座に冠動脈造影→カテーテル治療を行うことに殆ど迷いはありません。一方、非ST上昇型の心電図に関しては、他の心臓病も十分に考慮する必要があります。

 

今回、御紹介したい論文は下記1,2を満たす患者さんです。

  1. 蘇生に成功し、かつ、心臓病が原因と考えられる院外心停止例。
  2. 非ST上昇型の心電図所見

非ST上昇型の心停止例であっても、急性心筋梗塞が原因である比率は高いため、蘇生後すぐに冠動脈造影を行って、急性心筋梗塞をより早期に診断し、カテーテル治療を行った方が、通常の臨床プロセス(鑑別診断など)を経て、急性心筋梗塞が疑われる人にのみ冠動脈造影を行う場合よりも、救命率が向上するのではないかというのが著者らの考えでした。

 

結果は著者らの考えを覆すものでした。迅速冠動脈造影群では通常プロセス群に比較して、

  1. 死亡率は迅速冠動脈造影群:46.0%, 通常プロセス群:54.0%と迅速冠動脈造影群で高い傾向を認めました。
  2. 死亡または重篤な脳障害の頻度は、迅速冠動脈造影群:64.3%, 通常プロセス群:55.6%とこれは統計学的な有意な差異を示しました。

 

仮説に反する結果となった理由の一つとして、迅速冠動脈造影群ではいきなり冠動脈造影を行う結果として、心筋梗塞以外の病気が心停止の原因であった場合に、その診断までの時間が遅れるためかもしれない(筆者注:その病気に即した治療も遅れる)、と述べています。一方、カテーテル治療を要する冠動脈病変の頻度は迅速冠動脈造影群:37.2%、通常プロセス群:43.2%に認めており、決して少ない頻度ではありませんでした。より早期のカテーテル治療の利点が結果に反映されなかった理由として、脳障害が心筋障害よりも生命予後により深刻に影響したのかもしれない、と著者らは述べています。

 

AEDを含む心肺蘇生法の普及と蘇生後の様々な治療の進歩(カテーテル治療、体温管理療法、ECMOなど)にもかかわらず、心停止例の救命率は低いのが現状です。心停止の予防のためには心筋梗塞の予防が何より重要であり、そのためには禁煙と危険因子(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症)の早期治療とコントロールが大切です。

 

参考文献

N Engl J Med 2021;385:2544-2553

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