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食塩摂取量と心血管疾患の発症リスク

[2022.01.17]

食塩摂取量、およびカリウム摂取量と心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、冠動脈の血行再建)の発症率に関して、昨年の11月に掲載された信頼性の高い論文を御紹介したいと思います。最初に強調したい注意点は主にふたつあり、対象者が殆ど白人であること、および慢性腎臓病の方は除外されていることです。

 

論文ではナトリウム摂取量を基準に述べられていますが、この稿では、理解しやすくするために、ナトリウムの摂取量を以下の換算式を用いて、食塩摂取量に換算して記述しました。

食塩摂取量=2.54×ナトリウム摂取量(mg)/1000

すなわち、1000mgのナトリウムの摂取は2.54gの食塩の摂取となります。

 

研究の対象者は10,709名で、およそ8.8年間の追跡調査を行っています。対象者のうち糖尿病:2.4%、高コレステロール血症:29.8%、高血圧:23.6%の合併をそれぞれ認めました。ナトリウムの定量は最も信頼性の高い24時間の畜尿法によって行われており、しかも、全例で少なくとも2回以上の畜尿検査を行っています。1日の食塩摂取量の中央値は8.3g(ナトリウムとして3270mg)でした。

 

  1. 対象者を食塩摂取量に関して均等に4群に分けた時、心血管疾患の発症率は食塩摂取量の増加に伴って、段階的に増加し、食塩摂取が最も多いグループは最も少ないグループと比較して、1.60倍の心血管疾患の発症リスクでした。
  2. 逆にカリウム摂取量に関しては、カリウム摂取量が最も多いグループは最も少ないグループと比較して、0.69倍の心血管疾患の発症リスク(31%発症の危険が低下する)でした。
  3. 食塩摂取量:2.54gの増加は、心血管疾患の発症リスクを18%高めました。
  4. カリウム摂取量:1gの増加は、心血管疾患の発症リスクを18%低下させました。
  5. カリウム摂取量の増加、食塩摂取量/カリウム摂取量の低下は、総死亡(心血管疾患による死亡+他の原因による死亡)をも低下させました。

 

比較的に健康な成人に関しては、より少ない食塩摂取とよりたくさんのカリウム摂取が健康の維持には有利と解釈することができますが、最初に述べたように腎機能障害がある人にとっては、カリウムをたくさん摂取すると高カリウム血症となり、危険な不整脈を誘発するため、カリウム摂取は少なくした方がいいでしょう。また、白人が主体の検討であるため、心血管疾患の中身は、心筋梗塞や冠動脈の血行再建の頻度が高く、脳卒中の発症が低くなっています。日本人では食塩の摂取量の増大に伴って、心筋梗塞よりも脳卒中の頻度が高まるのではないかと予想しますが、その点に関しては、本邦での研究結果を待ちたいと思います。

 

参考文献

N Engl J Med. 2021 Nov 13. doi: 10.1056/NEJMoa2109794. Online ahead of print.

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