メニュー

血圧から視えてくるもの

血圧 = 心拍出量×末梢血管抵抗と定義されます。上の血圧が収縮期血圧、下の血圧が拡張期血圧で、収縮期と拡張期血圧の差が脈圧です。身体活動度、食塩摂取量、腎臓からの食塩排泄能、交感神経活性、昇圧物質、昇圧物質に対する血管の反応性、および血管の構築などさまざまな要因により心拍出量と血管抵抗は影響され、刻々と血圧も変動します。左右の血圧は等しい、下肢の血圧は上肢の血圧よりも高い、および就眠中は覚醒中よりも血圧は低下する、などが原則的な事項です。

 

高血圧に関しては、別稿に説明しますので、血圧値の特徴から分かる高血圧以外の病気を下記に示します。

  1. ショック:収縮期血圧 < 90 mmHgまたは平均血圧(拡張期血圧+脈圧/3) < 65 mmHgで、末梢循環不全(意識障害、少ない尿量など)を伴う、と定義されます。ショックをきたす代表的な病気は、敗血症、大量の出血、高度の脱水、肺塞栓症、急性心筋梗塞および劇症型急性心筋炎などです。循環器救急の分野では、血圧、特に収縮期血圧は患者さんの命そのものでした。
  2. 大動脈弁閉鎖不全症、甲状腺機能亢進症、高度な貧血など:脈圧(正常値:40-60 mmHg)が大きくなります。大動脈弁閉鎖不全症と甲状腺機能亢進症は、同時に収縮期高血圧を伴っている頻度も高い疾患です。主として心拍出量が増大することが、脈圧が大きくなる理由です。収縮期高血圧の患者さんで、降圧薬を投与してもなかなか降圧しない時、大動脈弁閉鎖不全症の合併を疑う必要があります。また、高齢者では大動脈の進展性が低下するため、収縮期血圧は高くなり、拡張期血圧は低下します。
  3. 大動脈解離、高安大動脈炎、鎖骨下動脈狭窄:上肢の血圧の左右差を認めることがあります。上行大動脈解離は緊急の人工血管置換術が必要となる危機的な病気ですが、その1/4の患者さんで血圧の左右差が出現するとされています。血圧の左右差を知るときは必ず左右同時に血圧を測定することが必要です。同時に測定した場合の血圧の左右差 ≥ 15 mmHgは意味のある差です。
  4. 下肢閉塞性動脈硬化症:一側または両側の下肢血圧が上肢血圧より低下します。足関節上腕血圧比(ABI: ankle brachial index) = 足関節での収縮期血圧/上腕動脈での収縮期血圧という指標があり、ABI ≤ 0.90であれば、下肢を養っている動脈に血流を阻害するような狭窄がある可能性が高いでしょう。歩行時に足が痛くなり、しばらく休むと回復するという症状は、間欠性跛行と呼ばれ、下肢閉塞性動脈硬化症の典型的な症状です。病気が進行すると下肢の冷感や安静時疼痛が出現してきます。
  5. 糖尿病、閉塞性睡眠時無呼吸:血圧の1日の変動リズムは睡眠中に降圧(覚醒時の10-120%の低下)することが正常のリズムです。糖尿病や閉塞性睡眠時無呼吸の一部の患者さんでは、睡眠中の降圧が小さいパターン(0 -10%)あるいは、むしろ睡眠中に血圧が上昇するパターンを示します。糖尿病による自律神経の調節障害、および閉塞性睡眠時無呼吸で認められる睡眠中の交感神経の活動の亢進が不十分な睡眠中の降圧、あるいは血圧の上昇に関与していると考えられています。
  6. 心タンポナーデ、収縮性心膜炎、喘息重積発作:吸気時の過度の収縮期血圧の低下 ≥ 10 mmHgを示すことがあります。正常での呼吸に伴う血圧の変動幅は2 – 3 mmHgとされています。
  7. 起立性低血圧:臥位または座位から起立し、起立後、3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10 mmHg以上の低下を認めるときに起立性低血圧と診断されます。高齢者では高血圧がある一方で、起立性低血圧も合併している患者さんがおられ、治療に難渋することがあります。また、糖尿病やパーキンソン病でも起立性低血圧を合併することがあります。

 

どうでしょうか?血圧値の特徴やパターンがさまざまな病気と関連することを理解して頂けたことと思います。血圧は簡便に測定できる極めて重要な指標なのです。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME