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オンライン診療の効果と限界

[2020.04.27]

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による院内感染のために、本来の機能の縮小または中断を余儀なくされる病院が相次いでいます。院内感染の予防のために新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の重症度別の隔離先の振り分け、あるいはCOVID-19患者を専門に治療する病院の選定・建設などが提唱され、あるいは地域によっては実行されています。外来に関しては、患者さんと医療スタッフを感染の疑いがある患者から保護する方法として、オンライン診療が脚光を浴びています。今回はオンライン診療の効果と限界に関して、私見を述べてみます。

 

オンライン診療の定義: “遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び 診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為”と厚生労働省では定めています。情報通信機器の内訳はネット回線を利用した映像と言語のやりとり、電話によるやりとりが想定されます。ネット回線を利用したオンライン診療の構築をサポートする会社が数社あり、利用するためには、それぞれの会社のアプリケーションを医師と患者の双方がPCあるいはスマートフォンなどにダウンロードする必要があります。オンライン診療に関する厚生労働省の啓発ポスターを文末に添付しましたので、ご参照ください。

 

オンライン診療の効果:クリニックでのオンライン診療では、病歴の聴取(問診)が主体になります。病歴聴取は診療技術の中でも、最も重要な技術です。とはいえ、病歴で推測された病気を診察なり、検査なりで確かめていくステップが通常の診療ですので、オンライン診療の能力は全体の診療行為の正味の能力の半分以下でしかないでしょう。

 

発熱患者に関しては、オンライン診療のみで完結することができれば、もちろん感染リスクはありません。通常の風邪程度でしたら、問診のみでの処方で完結できるでしょう。一方、当初の見込みとは異なる経過を示した場合(熱がなかなか下がらないなど)、肺炎が疑われる場合はやはり対面での診察が必要となり、血液検査や胸部X線撮影などを行うことになります。

 

高血圧などの生活習慣病で通院中の患者さんで、遠方に居住している、あるいは急な用事や仕事などで予定の外来に受診できない時は、オンライン診療は有効な方法となります。通院中の患者さんに関しては、医師もその方の病気の状態、背景因子(おおまかな性格、家族構成、仕事など)を把握していることが普通ですので、治療をそのまま継続していいのか、あるいは、変更が必要なのか、ということを、ある程度の確かさで決めることができると思います。

 

オンライン診療の限界:繰り返しになりますが、オンラインによる外来診療は、通常の診療の半分以下しかカバーできていないことを強調したいと思います。すなわち、診療の質が低くなりがちな問題点をそれ自体に内包しているのです。対面診察により弁膜症を疑う心雑音を見出したり、あるいは、心不全を疑う下肢浮腫を見出いしたりすることは、日常診療でごく普通にあります。対面診療はこちらの工夫次第で質を高めていくことができます。初診からオンライン診療を用いることは、私には無謀な行為、と思えます。ふたつめの問題点として、オンライン診療は即時性がない、ことです。問診で迅速な検査が必要と判断されても、患者さんに再度、受診をお願いしなければなりません。例えば、患者さんが動悸を訴えたとします。まさしくその時に心電図を記録すれば、不整脈の診断が可能ですが、オンライン診療ではできません。再度、受診した時にはすでに症状が改善していて、診断の絶好の機会を失うことにもなりかねません。みっつめの問題点として、オンラインでは人と人との距離が遠くなりがちであるため、特に初診の患者さんでは人間関係が築きにくいことがあると思います。実は患者さんとの会話も重要なのですが、オンライン診療では情報のやりとりだけに終始しがちなのではないでしょうか。よっつめの問題点として、ネット回線を利用した診療では、当然ながらネット環境がない方は利用できません。また、患者さんと医師と双方がアプリをスマートフォンなどの媒体にダウンロードする必要があり、ある程度のハードルがあることも事実でしょう。

 

最後に:わたしたちのクリニックではやむをえない事情がある時は電話再診に応じています。初診の38℃以上の発熱患者さんに関しては、まずは電話による問診を行うようにしています。そのうえで診察を省略できると判断できる場合は、問診のみで薬を処方することもありえます。その際も自分の判断が正しかったか、電話による経過の確認を行うようにしています。ネット回線を利用したオンライン診療の必要性に関しては、COVID-19が終息してから、ゆっくり考えたい、と思います。

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