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"むくみ”の臨床

[2021.08.17]

浮腫(むくみ)はクリニックを受診される患者さんの中で、頻度の高い主訴のひとつです。知人(家族)から瞼がはれているといわれました、足の甲がはれました、足の脛を押すとへこみます、夕方になると足のむくみが強くなります、片方の足がむくんでいます、などが浮腫に関連する患者さんの訴えです。

 

浮腫は間質に過剰な水分が貯留した状態で、主として血管(毛細血管)からの水の漏出によるもので、一部は漏れでた水を回収して血管に戻す働きのあるリンパ管の問題(リンパ管の閉塞など)も関係してきます。下段の図は日本呼吸器学会のホームページより引用した浮腫のメカニズムを示しています。

(URL: 下肢が腫れ(むくみ)ました|一般社団法人日本呼吸器学会 (jrs.or.jp))

 

浮腫の発生メカニズムは次のように大別することができます。また、その原因により考えられる病気もある程度、決まってきます。

  1. 静脈圧の上昇→毛細血管内圧の上昇→水の血管外の漏出→浮腫:静脈圧の上昇は全身性に起こる場合と局所性に起こる場合があります。全身性に起こる場合として、心臓病による心不全と腎不全などが考えられます。この場合、下肢浮腫は左右均等に認められることが多いでしょう。局所性に静脈圧の上昇が起こる場合は、静脈の閉塞、狭窄が考えられます。例えば下肢静脈血栓症では血栓がある方の足にむくみが生じます。肺がんなどによる上大静脈の閉塞の場合は、上半身に浮腫が強くなるという特異なむくみの分布を示します。
  2. 低アルブミン血症→血管内に水を引きつけておく力が弱まる(膠質浸透圧の低下)→水の血管外への漏出→むくみ:アルブミンはたんぱく質の一種です。低アルブミン血症の原因としては、低栄養や肝硬変などによる合成の低下とネフローゼ症候群という腎臓の病気によるアルブミンの喪失(尿中に大量のアルブミンが流出します)に大別されます。
  3. 炎症→血管壁の透過性の亢進→水の血管外への漏出→むくみ:蜂窩織炎という皮下組織の細菌感染症では、炎症に伴う浮腫とともに、浮腫がある場所での熱感や疼痛を伴うことが多いです。蜂窩織炎は下肢に発生しやすい特徴があります。アレルギーによる浮腫では、体の一部、口唇、舌、顔面などに局在する浮腫をきたすことがあります。
  4. リンパ管の障害→間質でのタンパク質濃度の上昇→水の血管外への漏出→むくみ:手術によるリンパ節の切除などによって起こってきます。いわゆるリンパ浮腫で必ず左右差がある、すなわち患側がむくんでいることが特徴です。
  5. 内分泌性:甲状腺機能低下症では間質でのムコタンパクが蓄積し、指でおしてもへこまない非圧痕性の浮腫となります。

 

急激な体重増加の有無は浮腫の診察で極めて重要です。例えば心不全の増悪による浮腫の場合は、1週間で2Kg以上の体重増加を認めることがあります。また、患者さんが内服している薬の確認も重要です。薬に関連する浮腫は稀ではないためです。例えばCa拮抗薬は副作用の少ない降圧薬の第一選択薬のひとつですが、人によっては強い浮腫をきたすことがあります。また、鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)が、腎障害を起こして、浮腫の原因となることもあります。

 

浮腫の鑑別で臨床検査は重要な役割を果たします。例えば下肢浮腫の患者さんが受診されたとします。タンパク尿の有無、タンパク尿の程度、腎機能(尿素窒素、クレアチニン値、換算糸球体濾過量)、NT-pro BNP(心臓性の浮腫ではほぼ必ず上昇します)、D-ダイマー(静脈血栓症で上昇します)を調べるように、私はしています。

 

次回は慢性浮腫に対する弾性ストッキングの効果を明らかにした論文を御紹介します。

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