メニュー

ペースメーカーって何?

[2024.03.04]

ペースメーカーという治療装置の名前を聞いた人は多いかと思います。ペースメーカー治療が保険適用されてから今年でちょうど50年が経過し、日本では年間、約6万件のペースメーカー植え込み手術が施行されています。ペースメーカーは脈が遅くなるタイプの不整脈(徐脈性不整脈)があって、かつ、徐脈による症状が明確な場合がもっともよい適応となります。

 

ペースメーカー治療が必要な徐脈の症状

一過性の心停止による失神、気が遠くなる感覚、眼前暗黒感は典型的な症状です。さらに慢性的な徐脈、および労作に伴う心拍数の増加を欠いたり、不適切な場合は、労作時の息切れや易疲労などの症状を認めることも多いといえます。中には認知機能に影響を与えている場合もあって、認知症と思われていた人がペースメーカー植え込み後に認知機能が回復する方もおられます。

 

徐脈性不整脈の種類

心臓には司令塔があって、右心房にある洞結節という部位で、心拍の指令(電気的な発火)が発せられます(図1)。その指令を伝達する電線が心臓にはあり(図1)、電気的な興奮の順番としては洞結節→心房筋→房室結節→ヒス束→右脚、左脚→網状に広がるプルキンエ線維→左右の心室筋となります。

図1

 

図2には1心拍の心電図を示しています。P波は心房筋の興奮を、QRS波は心室筋の興奮を反映しています。P波のあるなし、P波とQRS波が1:1の対応をしているか?(P波のあとには必ずQRS波を認めるか?)ということが徐脈性不整脈を解釈するうえで重要となります。

図2

 

図3は心停止の区間のP波を欠如しており、“洞停止”という不整脈です。図4はP波とQRS波が全く無関係に出現しているので(洞結節での命令が心室に届いていない)、“完全房室ブロック”という不整脈です。ともにペースメーカー治療が必要となる代表的な不整脈です。

図3

図4

ペースメーカーのタイプ

従来型ペースメーカー:図5Aは従来型のペースメーカーを示し、ペースメーカー本体(発電所)とリード(電線)から構成されます。リードから得られる心臓の電気的な情報(心房や心室筋の興奮)を本体が読みとり、適切な発電をして、それがリードを介して心房筋または心室筋、あるいはその双方を興奮させます。本体は鎖骨下の皮下にポケットを作成して、留置されます。徐脈性心房細動以外の徐脈性不整脈では、多くの場合は、右心房と右心室のそれぞれ1本(合計2本)、リードが挿入されます。

 

従来型のペースメーカーの主な合併症としては、ポケット部位やリードの感染、およびリードの劣化や断線によるペーシング不全(心房筋、心室筋を刺激できない)、センシング不全(心房筋、心室筋の電位を読み取れない)などがあります。

 

リードレスペースメーカー:図5Bのリードレスペースメーカーは従来型のペースメーカーに起こりえる合併症を克服するために誕生しました。リードレスペースメーカーはカプセル型のペースメーカーで、専用のカテーテルを介して右心室に留置されています。これ単体で心室の電位の読み取りとペーシングが可能であるため、感染症のリスクとリードの劣化によるぺースメーカーの不調を軽減することができます。現状では心房の興奮との同期性がなく、すなわち、心房の興奮とは関連なく心室が興奮するため、徐脈性心房細動や一過性の心ブロックなどがよい適応となります。なお、すでに右心房と右心室それぞれにリードレスペースメーカーを留置し、心房→心室の同期性を保とうという試みもあることから、将来的にはより広い適応を獲得するものと思います。

図5

 

日常生活の注意点

  1. ペースメーカーは下限の心拍数(担保されている最低の心拍数)がプログラミングされているため、毎日、脈拍数をチェックしてください。
  2. ペースメーカー手術を行った施設では、定期的なペースメーカーの動作チェックを計画することが多いので、その予定日には必ず受診しましょう。
  3. 手術前と同じような症状が再発した時はペースメーカーの不調も考えられるので、主治医に相談しましょう。
  4. 受診時には必ずペースメーカー手帳を持参してください。
  5. 体に直接通電させるような健康器具は避けましょう。
  6. 強い電磁波を発生させる環境(全自動麻雀卓、発電所など)には近づかないようにしましょう。

なお、現行のペースメーカーは“条件付き”でMRI検査が可能、としている機種が多いのですが、検査前後での設定変更が必要で、撮像が認可された施設での循環器専門医の監視下に、検査を受けることになります。

 

参考文献

N Engl J Med 2024;390:442-454

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME