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肥満症の治療薬オルリスタット(商品名:アライ)の実力

[2024.03.12]

1週間ほど前になるでしょうか、肥満の治療薬が要指導医薬品として、薬剤師のいる薬局で薬剤師の体面による問診、指導の許で入手可能となる、という報道が流れていました。さっそく調べた処、オルリスタット(日本での商品名:アライ)という薬剤名でした。すでに海外では100か国以上で認可されている薬です。日本ではオルリスタット(アライ)の服用にあたっては各種の制限があり、単純化して述べるとまず3月以上の生活習慣の改善にとりくみ、肥満の他に合併疾患(生活習慣病、心筋梗塞などの冠動脈の病気、脳卒中、睡眠時無呼吸など)がなく、併用禁忌薬(ワーファリンなどの抗凝固薬、抗てんかん薬などさまざま)を内服していない内臓脂肪型肥満(腹囲:男性 85Cm以上, 女性 90 Cm以上)の方が適応となります。内服にあたってのチェックリストは大正製薬の右記URL: alli_check_sheet.pdf (taisho.co.jp)を御参照ください。

 

今回は日本での臨床試験(1)と海外のレビュー(2,3)を参考に、プラセボ(偽薬)と比較した際のオルリスタットの実力を概説したいと思います。

 

作用機序:オルリスタットは消化管でリパーゼという中性脂肪を加水分解する消化酵素の働きを抑えることで、食事由来の脂肪の吸収を30%ほど抑えます。それは1日当たりの摂取カロリーの減少効果としては約200 キロカロリーに相当し、後述する体重の減少効果や代謝面でのよい効果が期待されています。

 

次にオルリスタットの効果を見ていきましょう。

 

内臓脂肪型肥満:内臓脂肪の蓄積は皮下脂肪の蓄積に比べて、高血圧、糖尿病、高脂血症などの病気の発症リスクを増大させ、ひいては心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患の発症リスクを増大させることが知られています。臍レベルでの内蔵脂肪面積:100 Cm2以上が内臓脂肪型肥満で、その100 Cm2は先に述べた腹囲のサイズ(男性:85Cm以上, 女性;90 Cm以上)に相当しています。オルリスタット群:100例、プラセボ群:100例を対象に行った日本の臨床試験では、約6月後の腹囲の減少効果はオルリスタット群で大でした(-2.51 % vs. -1.55%)。同様な結果は海外の研究でも示されています。

 

体重に対する効果:2019年の厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると肥満度指数(BMI):25 Kg/m2以上の肥満の頻度は男性:33.0%、女性:22.3%でした。肥満は2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクを高めるため、体重の適切なコントロールは極めて重要です。10000人以上を対象としたメタアナリシス(幾つかの論文を統合して行う研究)では、オリススタットはプラセボに比べて、1年後の体重減少が-2.9Kg大でした。また、耐糖能障害(前糖尿病)から糖尿用へと進展するリスクを37%低下させました。同様な他の検討ではオルリスタットの体重減少効果はプラセボより2.6-2.9%大でした。生活習慣の改善+オルリスタットの投与は生活習慣の改善のみに比べて、より体重を減らすことは確かのようです。その他、オルリスタットによりHbA1Cの減少効果(2型糖尿病)やLDLコレステロールの低下も一部の研究で報告されています。

 

残念ながら、私が調べた範囲では、オリルスタットにより実際に心血管疾患の発症または再発予防効果を示した報告はないようでした。

 

副作用:吸収されない脂肪成分が便に含まれる結果となるため、消化器症状が主な副作用となります。日本の臨床研究では消化器系の副作用の頻度は41%で、油漏れ(20%)、脂肪便(5%)、便失禁(4%)などです。また、日本の臨床試験では認められませんでしたが、脂溶性ビタミンであるビタミンA,D, E,Kおよびβカロチンの吸収障害も示唆されています。そのため、オリススタットを内服する際はこれらのビタミンを含む製剤を内服すべきである、という見解もあります。

 

当クリニックの患者さんは冠動脈疾患、高血圧、高脂血症、糖尿病、および睡眠時無呼吸のいずれかに該当する人が多く、かつ、抗凝固薬を内服している人も多いため、オルリスタットの内服に適した人はごく少数に留まるようです。

 

参考文献

  1. Ther.2019;36:86-100
  2. Xiguang Qi 2018 IOP Conf. Ser.: Mater. Sci. Eng. 301 012063
  3. 2023;330:2000-2015
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