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プラスティックと動脈硬化

[2024.04.08]

ペットボトル、携帯電話のボディー、自動車の部品などの日常生活に必要なさまざまな器具にさまざまなプラスティック素材が用いられています。そして、レジ袋の削減、ペットボトルのリサイクルなどの試みにもかかわらず、少なくとも2050年まではプラスティックの需要は拡大を続けると予測されています。自然界ではプラスティックは分解され、径5mm未満のマイクロプラスティックと径1000nm(nm:ナノメートル=10億分の1メートル)未満のナノプラスティックを生みだすことになります。このふたつのタイプのプラスティックを総称して、MNPsと略します。MNPsは消化吸収、呼吸、および皮膚を介して、人間の体内に取り込まれます。今回はこのMNPsが動脈硬化巣にも取りこまれ、心血管疾患の発症リスクを高めるかもしれない、という斬新な視点に立つ衝撃的な報告をご紹介しましょう。

 

研究の対象は70%を超える狭窄を認める無症候性の内頸動脈狭窄症の患者さんです。狭窄部位を外科的に切除し、MNPsの有無を観察しています。さらに、MNPを認めた患者と認めなかった患者の間で、非致死的心筋梗塞+非致死的脳卒中+死亡の頻度を比較しています。

 

257人の患者さんのうち実に150人(58.4%)に動脈硬化巣内にMNPsが検出されました。

MNPSの内訳はポリエチレンを150人に、ポリビニルクロライドを150人のうちの31人(12.1%)に認められています。そして、平均33.7月間という短い経過観察期間の間に心筋梗塞、脳卒中、死亡のいずれかを認めた頻度は、MNPsを認めた群:30人(20%)、認めなかった群:8人(7.5%)でした。統計学的には動脈硬化巣にMNPsを認めた人は認めなかった人に比べて、心筋梗塞、脳卒中などを発症するリスクが4.53倍、高くなるとのことでした。この報告ではMNPsと心血管疾患の発症リスクの関係に関して、因果関係があるとまでは断定していませんが、その可能性は十分に考えられるため、今後も検討すべき重要な課題といえるでしょう。

 

私は釣りを趣味としていますが、ライン、竿、クーラー、ルアーなど様々な道具にプラスティックは用いられています。釣りをしていると海底に残されたライン、ルアーなどが自分の仕掛けに偶然にかかって、回収されることが時にあります。また、殆どの錘は鉛素材であるため、これも海中に残されると有害です。釣りによる海の環境劣化を少なくするため、釣り場を守るため、ラインが切断されるリスクが高い根が荒い場所(海中の見えない岩が多い処)では釣りをしない、自分のごみはもちろんですが、偶然に回収されたライン、釣り場に残されたごみなどを今後も持ち帰るようにしなければ、と思いました。

 

参考文献

N Engl J Med 2024;390:900-910

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