心原性ショックの治療に光明?ー小型軸流ポンプの効果ー
急性心筋梗塞の救命率の向上のためには、心原性ショック(血圧低下と末梢循環不全:尿量の低下、意識障害など)の治療成績の向上が不可欠です。なぜなら、心原性ショックが入院後の急性心筋梗塞の首位をしめる状況が長らく続いているためです。心筋梗塞による心臓の収縮が低下した領域が広いと心拍出量(1分間に心臓が送り出せる血液の量)が低下し、ショックに至るリスクが高くなります。その“収縮が低下した領域”は壊死した心筋と生存しているが、収縮性を失っているダメージ心筋(気絶心筋といいます)から構成されています。気絶心筋が収縮性を回復するまで心臓をサポートする治療装置が補助循環システムです。
これまで心原性ショックを伴う急性心筋梗塞の生命予後を改善させうるか、とい点に関して、大動脈内バルーンパンピング(心臓に対する収縮期の負担を減らし、心臓を養う血管の拡張期血流を増やす効果があります)と体外式膜型人工肺(ECMO:血液の酸素化と血液を送り出すポンプとしての役割を担います)の臨床試験が行われてきましたが、いずれも明確な効果を示すことができませんでした。
最近、3番目の候補として、小型軸流ポンプ(Impella CP)の効果を検討した臨床試験の効果が報告されました。この治療装置は左心室内に留置したカテーテルより血液を脱血し、大動脈に送血することにより、不足した心拍出量を補う効果があります(図1)。メーカー情報では、最大3.7L/分の流量補助を行うことができるそうです。
図1:小型軸流ポンプの仕組み
結果は小型軸流ポンプの救命効果を示すものでした。入院後180日の間での死亡率は軸流ポンプ施行例:45.8%、非使用例:58.5%と軸流ポンプ施行例で低率だったからです。特に血圧低下が高度なショック例(平均血圧:63 mmHg以下)での有効性に優れていました。一方、非施行例に対する有害事象の頻度は軸流ポンプ群で高く、中等度から高度の出血:2.06倍、下肢虚血:5.15倍、敗血症:2.79倍でした。強い抗凝固療法が必要なこと、カテーテルの最大サイズ:4.7mmと径がかなり太いことから、予め予想できる結果といえますが、なかなか管理が大変そう、というのが私の感想です。
小型軸流ポンプは心原性ショックに至った心筋梗塞の生命予後の改善効果を明らかにした最初の補助循環装置となりました。なお、心停止例から蘇生した患者さんで、昏睡が持続している患者さんは予め除外されています。とはいえ、そのようなショックの患者さんはたくさん、います。また、右心室の機能が高度に障害された患者さんにはそもそも装置の適応がありません。すなわち、すべての心原性ショックに有効とはいえないということに注意が必要でしょう。
参考文献
N Engl J Med 2024;390:1382-1393