温故知新ーコルヒチンの話しー
コルヒチンという薬をご存じでしょうか?コルヒチンは強力な抗炎症作用を示し、長年、痛風発作の緩解と予防に用いられている薬です。そのコルヒチンが痛風の治療だけではなく、動脈硬化性疾患の再発予防にも有効かもしれないという画期的な論文がありましたので、御紹介します(1)。
この論文では発症後30日以内の急性心筋梗塞患者:4745名を低用量のコルヒチン:0.5mgを内服した群と非内服群の2群に分け、平均22.6か月の追跡調査を行っています。コルヒチン内服群では非内服群に比べて、経過観察期間の心血管関連のイベント(心血管死、心停止からの蘇生、心筋梗塞の再発、脳卒中など)を起こす危険が23%少なく、特にリスクの低減効果は脳卒中(74%の減少効果)と血行再建を必要とする狭心症による緊急入院(50%の減少効果)で顕著でした。日本人では心筋梗塞より脳卒中の発生頻度が高いため、このコルヒチンの効果はさらに魅力的です
動脈硬化は慢性炎症という考え方があります。すなわち、血管壁にたえず侵入してくる悪玉コレステロール(LDLコレステロール)に対する生体の処理過程が動脈硬化を進展させていくという考え方です。コルヒチンはこの炎症過程そのものに介入して心血管イベントを抑制した可能性が考えられます。同様な目的で臨床試験で用いられた薬としてカナキヌマブ(注射薬)がありますが(2)、かなり高価であるため(1バイアル=150mg: 1,480,264円)、現時点では動脈硬化性疾患のようなたくさんの患者さんに対して用いる薬としては医療経済的な問題があります。それに対して、コルヒチンは安価な薬です(1錠=0.5mg:7.3円)。コルヒチンが動脈硬化性疾患の新たな治療の地平を拓いたかもしれないという点で、まさしくコルヒチンの温故知新といえるのではないでしょうか?
注意点:コルヒチンの保険適応疾患は痛風発作の緩解と予防、および家族性地中海熱です。心筋梗塞に対する適応は現時点ではありません。
参考文献
- N Engl J Med 2019 Nov 16. doi: 10.1056/NEJMoa1912388. [Epub ahead of print]
- N Engl J Med 2017; 377:1119-1131