高血圧一問一答
生活習慣病の中では高血圧の患者さんが最も多い現状があります。そして、高血圧の患者さんから、さまざまな疑問が私に投げかけられてきました。そうした疑問の中から代表的な問いについて、高血圧治療ガイドライン2019を基本に、私見もまじえながら、お答えしてみました。
Q1:高血圧と診断される血圧の値はどれくらいでしょうか?
診察室血圧と家庭血圧では高血圧の診断基準が異なります。診察室血圧では140/90 mmHg、家庭血圧では138/85 mmHgが高血圧とされる、しきい値です。血圧は変動幅が大きな指標ですので、少なくとも異なる二つの機会で血圧を測定することが必要です。
Q2:検診で血圧が高いといわれました。どうしたらいいでしょうか?
高血圧の診断、治療の要否、および治療方針を決めるうえで、医療機関(病院よりクリニックがいいでしょう)を受診することが、最も確実な方法です。特にⅢ度高血圧(収縮期血圧:180 mmHg,拡張期血圧:110 mmHg以上)の方は最初から降圧薬を内服したほうがいい場合がしばしばあります。また、過去の検診記録でも収縮期血圧:140 mmHg以上、あるいは拡張期血圧:90 mmHg以上でしたら、実際に高血圧である可能性が高いでしょう。一方、なかなか受診できる時間がなく、自宅に家庭血圧計がある場合は、まずは1週間ほど血圧を記録してみてください。家庭血圧の平均値が収縮期血圧:135 mmHg以上、または拡張期血圧:85 mmHg以上であれば、やはり時間の都合をつけて、医療機関を受診した方がいいと思います。
Q3:高血圧に症状はありますか?
高血圧に特有な症状はありません。ただ、緊急に降圧治療が必要な高血圧脳症では、頭痛、悪心、嘔吐、視力障害などが出現してくることはあります。高血圧と関連する合併症、例えば心筋梗塞や脳梗塞が起こったときに、それぞれの疾患の症状が出現します。いいかえれば、高血圧による重篤な疾患を合併したときに、症状が出現する、といってもいいでしょう。
Q4:症状がないのに、なぜ血圧をさげないといけないのですか?
高血圧により障害される代表的な臓器は、脳、心臓、大血管、腎臓です。具体的には脳卒中(脳出血、脳梗塞)、心筋梗塞などの冠動脈疾患、心肥大をベースにした心不全、大動脈解離と大動脈瘤、および腎硬化症による腎機能障害などです。脳卒中、急性心筋梗塞、大動脈疾患はいったん発症すると生命の危機を招きかねないことはもちろんですが、回復後も日常生活に影響を及ぼす可能性があります。降圧治療によりこれらの疾患を発症するリスクが低下することは、多くの臨床研究で証明されています。“脳、心、腎、血管”を守ることが降圧治療の最大の目的といえます。
Q5:降圧薬の他にどんな高血圧の治療法がありますか?
減塩、適正な体重の達成、運動、禁煙、および6-8時間の睡眠時間の確保などが非薬物治療です。減塩は確実な降圧効果がありますので、高血圧患者さんにおける1日の食塩摂取量の目標は、6g/日未満です。肥満度指数[BMI=体重(Kg)/身長(m)2]が25Kg/m2以上の方は、食事内容や食習慣を見直す必要があるでしょう。具体的には間食をしない、摂取カロリーをへらす(食べる量をへらす)、1日3食とし、そのカロリーの配分も偏らないようにする(朝:昼:夕=3:3:4 または3:4:3)、などの注意が必要でしょう。朝は起きたばかりで、食欲がわかない人は、2:4:4の配分でもいいかな、と思います。急速な減量は逆に健康によくありませんので、肥満している方は1月あたり1-2Kgの減量を目標にしてください。運動は簡単にだれでもできることがいいでしょう。私は1日2回、20~30分の散歩を、患者さんにおすすめしています。
Q6:減塩のポイントを何でしょうか?
WHOでは成人の減塩目標値を5g/日に設定しています。一方、日本人の1日の食塩摂取量は約10g/日と高水準です。食塩を多く含む食品、調味料の使用を控えることが減塩の第一歩です。味噌、醤油、ソースの使用量を減らす、加工食品(魚の干物、ソーセージなど)の摂取を減らす、麺類のスープは完食しない、漬物類を控える、外食やコンビニの弁当は塩分濃度が高いことを知る、などが推奨できる注意点でしょうか。減塩は高血圧治療の基本であると同時に心不全治療においても重要であるため、別の機会に詳述したいと思います。
Q7:血圧のくすりはいったんのみ始めるずっとのまないといけないのでしょうか?
治療前の血圧値がⅠ度高血圧(収縮期血圧:140~159mmHg, 拡張期血圧:90~99 mmHg)、1種類の降圧薬のみで血圧がコントロールできている、および高血圧による腎機能障害や心肥大などの臓器障害がない、などを満たす患者さんは降圧薬をやめることができるかもしれません。降圧薬をやめることが可能かどうか、に関しては、必ず薬を処方した医師に相談し、自己判断による中止はやめましょう。また、夏季は自然降圧する方もいて、そのような患者さんに関しては、季節により服薬している薬の種類を減らせたり、用量を減らすことができる場合もあります。幸い降圧薬を中止できたとしても、また血圧が上昇してくる場合もあるため、引き続き血圧値を観察していくことも重要です。
Q8:降圧薬の副作用はどんなものがありますか?
種類を問わず、降圧薬全般の副作用は過降圧です。降圧薬を服用するようになってから、ふらつき、立ちくらみ、かえって体がだるくなった、などの症状が出現するようでしたら、過降圧の可能性があります。さまざまな降圧薬のなかで最初に選択される種類は、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬/ACE阻害薬、およびサイアザイド系利尿薬のうちのひとつです。カルシウム拮抗薬は強力な血管拡張作用があります。顔のほてり、動悸、浮腫などが主な副作用です。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬/ACE阻害薬は昇圧物質であるアンジオテンシンⅡの効果を弱める薬です。心臓と腎臓に対する保護効果もありますが、一方、慢性腎臓病の方に投与すると逆に腎機能を悪化させたり、高カリウム血症を招くこともあり、少量から投与するなどの配慮が医師には求められます。妊婦または妊娠しているかもしれない女性への投与は禁忌です。ACE阻害薬には空咳という特有の副作用もあります。サイアザイドはナトリウムの排泄を促し、降圧効果が発揮されます。低カリウム血症などの電解質異常、耐糖能異常、高尿酸血症などが主な副作用です。総じてカルシム拮抗薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は降圧効果が高い一方で、安全性に殆ど問題がないため、第一選択薬として頻用され、かつ、併用されることも多い薬です。
Q9::私は高めの血圧の方が調子がよいのです。なぜこれ以上、血圧をさげなければいけないのでしょうか?
長期間、高血圧が持続している、とくにご高齢の患者さんに多い訴え、疑問です。長期間の高血圧への曝露により、体がそれに馴れてしまっていて、降圧に伴う体の適応がうまくできなくなっていることが原因のひとつと思います。降圧薬の開始により本来、無症状であった人が不快な症状に悩まされるわけですから、重大な問題です。せっかく開始した薬物治療の自己中断にもつながりかねないためです。患者さんへの十分な説明と目標血圧までの緩徐な降圧を心がけたい、と思っています。
Q10:血圧が低い日は自己判断で、薬を飲まないようにしてもいいのでしょうか?
原則的にはその方法はおすすめしません。なぜなら、血圧は変動幅の大きい指標で、現在の降圧薬も急速な降圧をもたらすようには設計されていなため、過降圧に至るリスクは小さく、その時々での血圧値で用量調節をする根拠に乏しいからです。ふらつき、立ちくらみなどの過降圧によると思われる症状があるとき、あるいは90~100 mmHgと低めの血圧が続いて心配な時は、予定の外来日ではなくともかかりつけの医師に相談した方がいいでしょう。
Q11:朝の薬を飲み忘れてしまいました。どうしたらいいでしょうか?
降圧薬は長時間作用型なので、朝の薬を飲み忘れた場合はその日のうちに内服するようにして頂ければ十分です。そして、翌日の降圧薬は通常どおりに朝食後に内服してください。複数の薬が一包化されている場合は、患者さんが降圧薬だけを認識することは難しいため、飲み忘れの時の対処方法をかかりつけ医師に相談しておくといいでしょう。
Q12:家庭血圧の記録はどうして必要なのでしょうか?
すべての高血圧の患者さんに、家庭血圧の記録を強くおすすめしています。できれば、朝と夕の2回の記録が望ましいのですが、お忙しい方は1回の記録でもいいでしょう。血圧は測定回数が多ければ多いほど、その人本来の血圧値、血圧の変動範囲に近似してきます。患者さん自身が自分の血圧パターンを知ることができます。疑問もわいてくるかもしれません。医師にとっても家庭血圧記録がある方が、より確かな根拠で治療を考えることができます。家庭血圧記録は患者さんにとっても、医師にとってもメリットのある方法です。
代表的な疑問に対して、お答えしてみました。そのほか、私がまだ気づいていない疑問もあると思いますので、高血圧一問一答は随時、更新していきたい、と考えています。