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SGLT2阻害薬ー糖尿病と心不全と慢性腎臓病の薬ー

[2022.08.15]

もともと糖尿病の薬として開発されたにも関わらず、心不全や慢性腎臓病にも有効性が確かめられた薬があります。それがSGLT2阻害薬です。SGLT2は腎臓の近位尿細管でのブドウ糖の再吸収に関わるたんぱく質で、SGLT2阻害薬はそのたんぱく質の働きを抑えることで、尿に余分な糖を排出することにより血糖値を低下させます。SGLT2阻害薬はヘモグロビンA1C(過去1-2月の平均血糖値の指標です)を0.5-1.1%ほど低下させ、単独で投与する場合は低血糖を誘発するリスクが小さい薬です。

 

心臓病を専門とする私にとって、最も衝撃的であった臨床治験のひとつは2015年に発表されたEMPA-REG OUTCOME試験です。心筋梗塞や脳卒中の既往のある2型糖尿病患者に対して、既存の治療薬にSGLTS阻害薬であるエンパグリフロジンを併用することにより総死亡を32%、心血管疾患による死亡を38%、および心不全による入院を35%、低下させることができたのです。これらのリスク低減効果は種類により強弱はありますが、他のSGLT2阻害薬でも確かめられています。

 

SGLT”2阻害薬と心不全:SGLT2阻害薬による2型糖尿病患者の心不全による入院リスクを減らす効果は、六つの大規模臨床試験をまとめて解析すると32%です。もともと心不全の治療を目的として開発された薬でもこのような大きな効果を得ることは難しいことから、SGLT2阻害薬には血糖降下作用だけではなく、心保護作用があることが明らかです。現在、心不全薬として承認されているSGLT2阻害薬はエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)とダパグリフロジン(フォシーガ)で、その効果は糖尿病のあるなしとは関りがありません。収縮能が低下した心不全患者に投与した時、心不全による入院を低下させる効果は、エンパグリフロジン:31%、ダパグリフロジン:30%と同等の効果でした。一方、高齢者に多い収縮能が保たれた心不全に対しては、今までなかなか有効な薬がありませんでした。エンパグリフロジンは収縮能が保たれた心不全患者においても心不全による入院を27%も低下させるという効果を示しています。SGLT2阻害薬の心臓に対する良好な作用機序に関しては、心筋のエネルギー効率を改善して、収縮力を改善する、炎症を抑えて、心筋の線維化を抑制する、微小循環を改善するなどさまざまな機序が提唱されていますが、主要な役割を果たす効果についての一致した見解はありません。

 

SGLT2阻害薬と慢性腎臓病:慢性腎臓病の患者に対するSGLT2阻害薬の効果も確かめられています。4つの臨床試験をまとめて解析した時、人工透析の導入、腎移植、心臓病による死亡のいずれかを低下させる効果は、33%でした。この効果は糖尿病のあるなしとは関りがありません。慢性腎臓病の治療は高血圧では血圧コントロールを介して、糖尿病では血糖コントロール介しての治療が主体であり、慢性腎臓病そのものにアプローチする薬はありませんでしたが、ダパグリフロジンは慢性腎臓病の薬として承認されており、慢性腎臓病の治療に新しい視点を与えています。糸球体(血液をろ過して、尿を作る腎臓の組織)の内圧の上昇は腎機能を低下させていくことがしられていますが、SGLT2阻害薬の腎保護効果のひとつとして、糸球体内圧を低下させて、腎機能低下を抑制することが提唱されています。

 

比較的に新しい薬であるSGLT2阻害薬の糖尿病、心不全、慢性腎臓病に対する効果をまとめてみました。ご参考になれば幸いです。

 

参考文献

N Engl J Med 2022; 386:2024-2034

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