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閉塞性睡眠時無呼吸の薬物治療

[2024.09.12]

閉塞性睡眠時無呼吸の治療の目標は、1.日中傾眠などの自覚症状の改善、および2.心血管疾患(心筋梗塞、心房細動、脳卒中など)の発症または再発予防です。有効とされる薬物治療はなく、主な治療方法としては1.持続用圧呼吸療法(CPAP)、2.口腔内装置(マウスピース)、3.舌下神経刺激療法などの非薬物治療であり、このうちCPAPが最も標準的で、さまざまな臨床試験でその効果が検討されている治療法です。CPAPは上気道に予め設定している圧の範囲で気流を流し、睡眠中の上気道の閉塞による無呼吸を予防します(図1)。睡眠中の無呼吸と低呼吸の和を睡眠時間で割った無呼吸低呼吸指数(AHI):20回/時間以上が治療適応となります。

図1:CPAPの仕組み

 

睡眠時無呼吸の患者さんにとって、CPAPを継続することは努力を要することかもしれません。なぜなら、毎晩、マスクを装着し、CPAP装置に接続したホースをマスクにつなげる作業があるためです。入眠時の多少の違和感は否めません。また、少なくとも週に1回はマスクやホースを洗浄する手間があります。CPAPが心血管疾患の再発予防効果を発揮するためには、“平均して4時間以上/日の装着”が不可欠です。その治療時間に届いていない患者さんは、少なからずおられる現状があります。

 

“CPAPの他に、もっと簡便な治療はないのかな。例えば、内服薬ですむような”、と、これはCPAPを継続している患者さんの殆どが抱く願いと思います。最近、この願いにある一面から光明をなげかけるような臨床試験:PARAMOUNT-OSAが公表されましたので、ご紹介します。

 

PARAMOUNT-OSAで検討された薬剤はチルゼパチド(商品名:マンジャロ)です。この薬は糖尿治療治療薬としてのみ日本では承認されています。血糖降下作用の他に体重減少効果が強いことが特徴です。

 

PARAMOUNT-OSAはこの体重減少効果に着目し、チルゼパチドによる過剰な体脂肪の減少による上気道閉塞の軽減→睡眠時無呼吸の改善を期待し、計画された試験です。AHIが無呼吸の改善度の指標となっています。PARAMOUNT-OSAはtrial 1とtrial 2から構成されており、それぞれで対象患者さんが異なっています。Trial1はCPAP治療が継続できなかった、またはCPAP治療を希望しなかった人が対象で、trial 2はすでにCPAP治療を行っている人が対象です。ただ、trial 2ではCPAP治療におけるチルゼパチドの併用効果を検討しているわけではなく(AHIの測定に際して、CPAPを1週間ほど中止して、検査を行っているためです)、また、trial 1と2の結果はほぼ同じでしたので、trial 1の結果を下記に示していきます。

 

治療前のAHIはそれぞれチルゼパチド群:52.9回/時間、コントロール(偽薬)群:50.1 回/時間と重症の睡眠時無呼吸を認めました。治療開始52週目でのAHIの減少効果はチルゼパチド群:-25.3回/時間、コントロール(偽薬)群:-5.3回/時間とチルゼパチドによる良好なAHIの改善、すなわち睡眠時無呼吸の改善を認めました。体重減少効果もチルゼパチドで良好であり(-18.1 Kg vs. -1.3Kg)、著者らが期待していたように、チルゼパチドによる体重減少が無呼吸の改善に関連している可能性が示唆されています。

 

ただ、ここで注意を払う要点かあります。この臨床試験での対象患者の肥満度指数:39.1 Kg/m2と高度肥満の方が対象であったことから、あくまでもチルゼパチドは高度肥満を伴う睡眠時無呼吸の患者さんに有効性が示されたといえます。日本人では睡眠時無呼吸の患者さんの中で、高度肥満の頻度は高くなく、特に心血管疾患の既往のある睡眠時無呼吸の患者さんは概ね肥満度指数<25 Kg/m2であることから、PARAMOUNT-OSAの結果をそのまま日本の患者さんに転用することはできないでしょう。次にCPAPの効果が不十分な方にチルゼパチドの併用効果があるか、という点に関しては不明で有り、今後、この点を明らかにするための臨床試験が行われるかもしれません。

 

最後に日本におけるチルゼパチドの保険適応疾患は、糖尿病に限られていることを強調しておきます。

 

参考文献

N Engl J Med. 2024 Jun 21. doi: 10.1056/NEJMoa2404881. Online ahead of print.

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