高齢者の非ST上昇型心筋梗塞の治療ー私見も踏まえてー
急性心筋梗塞はその心電図所見より”ST上昇型心筋梗塞“と”非ST上昇型心筋梗塞”に分類されます。ST上昇型心筋梗塞は冠動脈(心臓を養う血管)のある部位の閉塞を意味します。閉塞した血管に対する発症後12時間以内の再開通治療がST上昇型心筋梗塞例の救命率を向上させ、心機能の低下を抑制する効果があることが、明らかな事実として、確かめられています。
一方、非ST上昇型心筋梗塞の病態は複雑です。まず高齢者の頻度が高いため、フレイルや認知症の合併頻度、および心臓病以外の病気(がんや慢性腎臓病など)の合併頻度も高くなります。冠動脈病変の面では、冠動脈回旋枝(左心室の側面、後面を養う血管)の完全閉塞例、自然再開通例、多枝病変例などのさまざまな冠動脈病変が含まれます。そのため早期に冠動脈病変を把握して、病変の特徴に応じた適切な治療を選択することが重要と私は考えています
75歳以上の非ST上昇型心筋梗塞例に対する侵襲的治療(冠動脈造影、カテーテル治療などの血行再建)の効果を検討した臨床研究が、昨年の11月の“New England Journal of Medicine”に公表されました。侵襲的治療+薬物治療:753例と薬物治療単独:765例の間で比較し、経過観察期間は平均4.1年でした。心臓死+非致死的な心筋梗塞の頻度は、侵襲的治療群:193例・25.6% vs. 薬物治療単独群:201例・26.3%と差異を認めませんでした。この結果より著者らは、高齢者の非ST上昇型心筋梗塞に対して侵襲的治療を薬物治療と併用しても、予後改善効果は乏しい、と結論しています。
本当にそうかな、と私は疑います。なぜなら、入院から2群に分別する時間が2日間、それからカテーテル治療(侵襲的治療群のうち46.6%の例で施行)を行うまでの時間がさらに2日間とかなり遅延しているように思えるからです。なぜなら、非ST上昇型心筋梗塞例でも梗塞責任血管の完全閉塞例は少なからず存在しているため、そのような患者さんに入院後4-5日経過して、血行再建を行っても心筋壊死を抑制する効果は殆どないと考えられるためです。高齢者の非ST上昇型心筋梗塞の患者さんに関しても、冠動脈造影は安全に行えるため、入院後ただちに冠動脈病変を評価し、冠動脈病変に応じた適切な治療をできるだけ早期に判断する治療戦略の効果を検証する必要があるかもしれません。
参考文献
N Engl J Med 2024; 391:1673-1684