崎戸のスズキ
秋の気配が濃くなるにしたがって、魚の活動も活発になってきます。海水温が多くの種の魚の適水温に近づくこと、および越冬に備えて体力を蓄積するために餌を積極的に捕食しようとするためです。釣りにおいては秋は黄金の季節といっても過言ではなく、目的魚に到達しやすく、かつ、数も見込めるのです。おまけに秋から冬の魚は食味も確実に向上してきます。1週間前には私も崎戸での半夜の釣りで、チヌを48 Cmを筆頭に3枚、ヘダイを2枚、62 Cmのコロダイ(図1)を釣り上げ、ほくほくの1日でした。
図1:コロダイ 62Cm
11月初旬、晴天、“池島に行ってくるけんね”と私は妻に堂々と宣言しました。“どうぞ、お好きにしてください”という彼女の口調は諦め半分、期待半分のようでしたが、基本的に前向きな私は後者の解釈を採用したことはいうまでもありません。しかし、です。フェリー乗り場に到着するとすでに先行者の車があって、後部座席に釣り道具を積んでいるようでしたので、堤防での競合を避けるために大島への転身を決断。大島造船所の対側のプチ地磯を目指しましたが、そこには若い男女が仲良くウキ釣りをしているのでした。その近くで胴体の太い岩虫をつけて鉛を放りこむ所業が激しく躊躇われたため、大島の体育館に隣接している階段状の護岸を目指しましたが、その場所もすでにルアーマンがふたり、竿を振っていました。結局、到着した場所は1週間前と同じ崎戸の護岸でした。その場所もイカ釣り船が横づけされていましたが、10mほど離れると十分に釣りができるスペースがありました。
夕まずめの17時30分から釣り開始。1本の竿をセットして2本めの仕掛けを用意している時でした。最初の竿がいきなり吹っ飛び、三脚もなぎ倒され、海に転落しそうな寸前で竿をキャッチ。巻き上げの抵抗もなかなかで、“コロちゃん、登場が早すぎますよ”と喜びを隠しながら呟いた後にあがってきた魚は、なぜかエイさんでした。私にとっての招かざる客の双璧はエイとフグです。その後も19時までに立て続けにあたりがあって、42 Cmを筆頭にヘダイ3尾。
ひとりの初老の男性が近づいてきて、
“ああたは最近、よう来よるごたっけど、何の釣るっとね”
“チヌとかコロダイとかです”と私。
“ほう、コロダイの釣れるとばいね”と意外そうな表情。
“はい、時にでかいのが来ます”
実際、少なくとも私が夜の投げ釣りを始めた25年前から崎戸本郷の海峡筋はコロダイのいいポイントです。5月下旬から10月までが狙える釣期です。水深がないため、大きな真鯛は期待できません。
先ほどの男性はイカ釣り船に乗り込み、エンジンを吹かしだしました。何と船長さんだったのです。さらに船を移動させ、突堤につけてくれました。そのため、狙える範囲が2倍となり、男性に感謝です。
御好意にもかかわらず、その後は招かざる客の双璧の片方であるフグの猛攻。ハリス(針につけている糸)がずたずたにされるため、本命が来るまで待とうホトトギス、というわけで、ひたすら、糸結びの繰り返し。その間に茶褐色の兄弟猫様が背後に待機しています。釣った魚のお相伴に与ろうとしているのでしょうが、何しろフグしかいないため、ごめんね、と謝るしかありません。仕方ないので、補助エサとして用意していたバナメイエビを分け与えて、人間と猫様、互いに慰めあいました。
日が変わってそろそろ寝ようかね、と思っていた午前1時前に、青年が近づいてきました。
“僕も向こうでサーフ(投げ釣り)をしていたんですよ”と彼。夜投げの同志です。
“夕まずめに50Cmのマゴチがきました”
崎戸ではマゴチを釣った経験がないため、思わず興奮する私。
“エサは何ですか”
“キビナの2匹がけです”
なるほど、です。崎戸では基本的に岩虫を本命餌としていたので、マゴチに遠かったのでしょう。当たり前ですが、エサが変われば、釣れる魚種も変わりえる、です。
“僕の方はヘダイ3枚です。でも、この場所はコロダイもきますよ”
“知っています。コロダイを釣りに僕も来ました。長崎の内科のお医者さんのブログを読んで”
それ私のことです、でしたが、何だか恥ずかしくて、言いだせませんでした。ごめんなさいね、青年。そのかわり、いい魚が釣れたら、場所も含めて正確にブログにアップしますので、引き続き読んで下さいね。
午前3時30分に釣りを再開して、間もなくヘダイ。午前5時にもヘダイ(食べきれないので、海にお帰り頂きました)。今日はヘダイ祭りかもしれません。狙いのコロダイは何処かへおでかけのようです。流れ星が流れ、お魚が釣れますように、とお願いします。もう無理かなと諦めかけた夜明け前、いきなり右45度に投げていた竿の糸が滑走し、合わせをいれるとまずまずの手応え。遠くでジャンプする魚は間違いなくスズキ。ちなみに私はスズキのことをシーバスと称されることに抵抗があります。淡水魚であるブラックバスとは親戚関係ではないためです。堤防の上でもジャンプしている魚はやはりスズキ65Cmでした(図2)。食いついてきたエサは岩虫。去年も秋に岩虫でスズキを釣ったので、この時期、虫餌でもスズキを狙って釣ることができるかもしれないです。
図2:スズキ65Cm
夜が明けてから、黄土色と白の小太りの猫様が近くを通り過ぎます。
“おはよう”
“ニャッゴ(おはよう)”と互いに挨拶を交わします。
“にゃらら、にゃらら(俺にご飯をくれんね)”
“ごめん、もうイカもエビもなかっさ”
“しゃあ、ニャッ(けっ、もう幻滅や)”
後片付けを終えると猫様とカラスが5mほどの距離をとって、向かい合っています。ふたりとも優しい目をしています。猫様とカラスは互いに天敵かな、と思っていましたが、互いにこの1日、頑張ろうぜ、と励ましあうかのようなほのぼのとした雰囲気でした。
その夜はスズキを天ぷらと炙りで食べました。2日めの夜は昆布締めと西京焼き、超美味でした。きれいな海で釣れるスズキはおいしいです。ヘダイは鯛茶飯、カルパッチョで食べる予定です。たまには肉を食べたーい、と宣う妻の声に関しては、年内、聞こえないふりをすることになるでしょう。