"フレイル”って、何?
居間で突然に妻は訊いてきました。“フレイルって、何?”と。直近で“フレイルを予防しましょう”という趣旨のポスターを時に目にしたための質問でした。一方、妻のように、フレイルの意味合いを知らない人は多いのではないでしょうか。フレイルには適切な和訳がなく、 “主として高齢者の虚弱過程”が私なりの意訳です。疫学的には50-59歳の11%が、90歳以上では実に51%の人がフレイルに該当します。フレイルは一般の方も知っていた方がよい概念と思いますので、今回はフレイルに関して、説明したいと思います。
評価方法:フレイルの評価方法に際しては、Fried表現型モデルと欠損累積モデルのふたつの方法があります。前者は主として症候面からフレイルを評価し、特に外来診療においては簡便で、有用性が高い方法です。欠損累積モデルの代表的な方法は、フレイルインデックス(Frailty index)です。フレイルインデックスは疾患(心臓病、脳卒中、がんなど)の有無、身体活動の低下、認知機能能低下、低栄養状態、臨床検査値の異常など少なくとも30項目以上の視点から評価し、該当項目/評価項目がフレイルインデックスとなります。フレイルインデックス:0.2以上がフレイルになります。ここでは一般の方にも理解しやすいFried表現型モデルを御紹介します。
Fried表現型モデル:Fried表現型モデルは下記の五つの症候から構成されます。
- 易疲労(疲れやすい)
- 筋力低下(例:握力 男性 < 28 Kg, 女性 < 18 Kg)
- 動作緩慢 ( 例:歩行スピード < 1mまたは8 m/s)
- 身体活動の低下(例:運動習慣がないなど)
- 体重減少
このうち易疲労が最初に表れる症候で、体重減少が最後に表れる症候とされます。症候の該当項目数により、フレイルの各段階が示されます。
- 頑健:該当項目数なし
- プレフレイル:該当項目1または2個
- フレイル:該当項目3または4個
- 最重症のフレイル:すべての項目があてはまる
なお、Fried表現型モデルは外来に通院中の患者さんには使いやすいモデルですが、入院患者さんに適用しない方がよいモデルです。
フレイルへの介入の目的と方法:フレイルまたはプレフレイルの方にとっては生理的な予備能(身体能力、感染などのストレスに対する抵抗力)の維持、あるいは向上がその目標となってきます。そのためには、運動と食事が2本柱となります。
運動は有酸素運動(ウォーキングなど)と筋力トレーニング(椅子スクワットなど)を含めて、週に4回以上で、1回の時間は30分前後が目安となるでしょう。運動は転倒予防のためにも重要です。
食事の面ではタンパクの摂取量が多い方がよいとされていますが、慢性腎臓病にとっては有害となりえますので、かかりつけの医師と相談されることをおすすめします。なお、特定のサプリメントがフレイルの予防または改善につながるという証拠はないようです。
当院では特に体重の変化を重要と考えており、受診時は毎回、必ず体重測定を行っています。がんや重症糖尿病などの病因がなくて体重が減ってくる患者さんに対しては、“もうちょっと食事量を増やしてください”、“好きなものを何でも食べていいですよ”とお話ししますが、“すぐに満腹になっていまします”とか“好きなものはありません”とお答えになる方も多く、食事に関するアドバイスは難しい、と日々、痛感しています。
参考文献
N Engl J Med 2024; 391:538-548