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新型コロナウイルス感染症のアウトライン

[2020.02.04]

中国の湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルスによる感染症は、まさしく燎原の火のように中国全土に感染が拡大しています(感染者数:20,438人)。2月3日12時の時点での日本では感染者数は20名(4名の無症状病原体保有者数を含む)と限定的で、幸い重症化している人もいないようですが、今後の感染の拡大も懸念されています。今回は新型コロナウイルスによる肺炎に関して、入手できる論文、公的機関のアナウンスメントなどをもとに、そのアウトラインをまとめてみました。

 

病原体:新型コロナウイルスは人に感染しうる7番目のコロナウイルスとして同定されました。最初は野生動物を扱う武漢の海鮮市場に出入りしていた人に感染が広がったことから明らかなように、人にも動物にも感染をおこしえるウイルスです。さらに、動物から人だけではなく、人から人へも感染を起こす特徴があります。

 

感染経路と予防:飛沫感染(感染者のくしゃみや咳を介する感染)と接触感染(病原体に汚染されたドアノブに触れるなど)の二つの経路が考えられています。マスクの着用と手洗いの励行などが、予防策として推奨されています。マスクの種類、性能による予防効果の差異に関しては不明です。インフルエンザの予防効果に関しては、高機能のN95マスクと通常のサージカルマスクでの差異はないという最新の論文もあるため、マスクの性能の差異に過大な期待はかけられないようにというのが私見です。

 

肺炎発症のリスクの高い人:60歳以上の高齢者、および糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患がある人が肺炎発症のリスクが高い、と考えられています。逆にメカニズムは不明ですが、15歳未満の子供は肺炎発症のリスクが極めて低いようです。

 

潜伏期間と感染リスク:感染から発症までの期間を同定できた10名の検討では、平均の潜伏期間は5.2日でした。そして、肺炎を発症する人の95%は12.5日までに発症すると推定されています。また、潜伏期間の人であっても他の人に感染させるリスクがあります。これは、潜伏期間中の中国人女性(後に発症)と仕事をしたドイツ人2名が感染したとのミュンヘンからの報告に基づいています。

 

症状:発熱、痰を伴わない咳、および筋肉痛・易疲労などが出現頻度の高い症状です。咽頭痛、くしゃみ、鼻汁などの上気道の症状はむしろ少ないようです。最初に上気道の検体では感染が陰性で、後に下気道(気管、気管支、細気管支、肺胞)の検体で陽性になった人がいることが報道されていましたが、この新型ウイルスは下気道への親和性が高いのかもしれません。

 

検査成績・画像診断:特徴的な検査成績はありません。ある報告ではリンパ球の減少(<1,000/μL)を63%の肺炎患者さんで認めています。両方の肺に肺炎像を認める頻度が多く(75%)、かつ、複数の肺葉や肺区域に肺炎を形成することも多いとされています。

 

治療:特異的な抗ウイルス薬はまだ開発されていません。呼吸と循環に対するサポート(昇圧薬、血液透析、人工呼吸器など)が中心になってきます。気管内挿管を行った上での人工呼吸器によるサポートを必要とした頻度は4-10%でした。

 

 

予後:肺炎以外の合併症としては、重篤な呼吸不全(17-29%)、二次感染(例:細菌性肺炎, 10%)、および急性心筋障害(12%)などです。肺炎になった患者さんの死亡率はひとつの報告が11%、もう一つの報告では15%でした。

 

中国の感染対策に関して初動の遅れを指摘する報道も散見されます。しかし、1,000万都市を封鎖し、1,000床規模の新型肺炎対策に特化した病院を作り上げることは並大抵ではできないように思います。また、武漢市で発生した肺炎を新型と認識したこと、その認識から約1月で新型コロナウイルスの遺伝子配列を決定したことは中国の科学技術の高さを証明しているように思います。

 

 

  1. N Engl J Med. 2020 Jan 24. doi: 10.1056/NEJMoa2001017. [Epub ahead of print]
  2. Lancet. 2020 Jan 24. pii: S0140-6736(20)30183-5. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30183-5. [Epub ahead of print] 
  3. Lancet. 2020 Jan 30. pii: S0140-6736(20)30211-7. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30211-7. [Epub ahead of print]
  4. N Engl J Med. 2020 Jan 29. doi: 10.1056/NEJMoa2001316. [Epub ahead of print]
  5. N Engl J Med 2020 Jan 30. doi: 10.1056/NEJMc2001468. [Epub ahead of print]

 

Web

  1. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-guidance-management-patients.html
  2. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09290.html
  3. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

 

1はアメリカ合衆国CDC、2と3は厚生労働省のHPのアドレスです。

 

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