帯状疱疹とは?
胸に発疹ができて、すごく痛みます、という訴えで、中高年の女性が受診した時に、最初に頭に浮かぶ病名は帯状疱疹です(図を参照ください)。帯状疱疹は85歳までに2人にひとりが経験する発症頻度が高い病気です。急性期の疼痛に加えて、発疹が改善後も持続する帯状疱疹後神経痛のために、不眠や仕事に集中できないなど日常生活に深刻な影響を及ぼすこともある病気です。今回は帯状疱疹に関して、その生ワクチンの効果も含めて、説明したいと思います。
発症機序:水痘・帯状疱疹ウイルスが初感染で水痘(水ぼうそう)を発症させ、その後、脳神経や脊髄後根神経節に潜伏します。宿主(ひと)の免疫能の低下などをきっかけに、ウイルスが再活性化し、帯状疱疹が発症します。発症のリスクファクターは、50歳以上の年齢、女性、免疫力が低下した状態(白血病などの血液の癌、免疫抑制剤の使用など)、および精神的ストレスなどです。
症状:発疹が出現する2-3日前から疼痛が先行することがしばしばあります。発疹は片側性で、水疱形成や膿疱形成にいたることもあります。特に顔面にできた帯状疱疹の場合は、網膜壊死などの眼合併症を起こすことがあるため、十分な注意が必要です。その他、髄膜炎、顔面神経麻痺、下肢の麻痺、および脳血管の炎症なども合併症ですが、頻度は高くはありません。
特徴的な発疹の性状と分布から診断は比較的に容易ですが、一部の患者さんでは発疹を認めず、疼痛のみを訴えることがあり、そのような例では診断が難しくなります。
抗ウイルス薬:発症後早期の投与が推奨されています。投与期間は7日間です。抗ウイルス薬は病変の改善を促し、急性期の疼痛も軽減させます。一方、帯状疱疹後神経痛の発生頻度を低下させる効果は少ないと考えられています。
ワクチンによる予防:水痘に対する生ワクチンが帯状疱疹の発症予防にも有効です。ワクチン接種により、水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫能(特に細胞性免疫)が増強されるためです。ワクチンによる発症予防効果は50~59歳:70%, 60~69歳:64%, 70y以上:38%です。一方、帯状疱疹後神経痛の予防効果は、60~69歳:66%、70歳以上:67%と年齢による効果の差異は認められていません。効果はワクチン接種後、経年的に低下していきますが、ワクチン非接種例に比べて、少なくとも5年間は良好な効果が維持されています。50歳以上の方はワクチン接種の適応となります。なお、妊娠している女性や免疫能の低下が考えられる方は接種の禁忌となります。
水痘・帯状疱疹ウイルスは長年、すなわち帯状疱疹を発症するまで、発症しない人は人生の終わりまで人と共存しているわけであり、ひょっとしたらこの共存関係は人にとっても有益な何かがあるのだろうか、とつい考えたくなります。
参考文献
- 感染症誌 2010; 84:692-701
- ウイルス 2018; 68:21-30
- N Engl J Med 2013; 369:255-263