心原性失神と神経調節性失神
“先日、意識を失いました。間もなく回復しましたけれど”-日常の外来診療で比較的によく耳にする患者さんの訴えです。中学生の頃、校長先生の長すぎる講話に、ばたばたと生徒が倒れる音が体育館に響いたりしていましたが、これは血管迷走神経反射による失神の代表例です。
失神は”一過性の脳血流の低下に伴う意識消失発作で、持続時間は短く、自然に回復するもの”、と定義されます。脳血流の低下は過度な低血圧が原因です。失神のタイプは3種類に分類されます。
- 神経調節性失神:血管迷走神経反射、状況失神(注1)、頸動脈洞性失神
- 起立性低血圧
- 心原性失神
これらのうち最も頻度の高い失神は神経調節性失神(なかでも血管迷走神経反射による失神)ですが、最も注意を要する失神は心原性失神です。心原性失神を認める患者さんの年間の死亡率は30%と高率だからです。一方、神経調節性失神の生命予後は失神がない方と変わりがありません。すなわち、心原性失神を見逃さないようにすることが、極めて重要です。心原性失神と神経調節性失神の特徴を下記に述べてみます。
心原性失神の特徴
- 労作中あるいは仰向けでの失神.
- 突然、出現した動悸あるいは胸痛に続く失神.
- 若年での原因不明の急死の家族歴.
- 大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などの構造的心疾患あるいは陳旧性心筋梗塞などの冠動脈疾患の存在.
- 不整脈による失神を疑う心電図所見:房室ブロック、心室頻拍など.
私見では心原性失神の患者さんは、失神前に防御の姿勢すらとることができず、倒れてしまう方が多いように思います。心原性失神が疑われる方は、心エコーで心臓の構造的異常の有無を調べ、ホルター心電図で危険な不整脈が出現していないかを調べます。それでも、原因が確定しない場合は、入院のうえ心電図モニターを行い、場合によっては冠動脈造影や不整脈を誘発するような電気生理学的検査を行うこともあります。心原性失神はその原因により、手術(大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術など)、徐脈性不整脈に対するペースメーカー治療、心室頻拍などの致死的頻脈性不整脈に対する植え込み型除細動器などのさまざまな治療の選択肢があります。
神経調節性失神の特徴
- 繰り返す失神の長い病歴、特に40歳より前に発症している場合.
- 不快な光景、音、におい、痛みに続く失神.
- 長時間の立位.
- 食事中の失神.
- 混雑している場所、あるいは暑い場所にいたときの失神.
- 失神前の前兆となる症状の存在:顔面蒼白、発汗、あるいは嘔気・嘔吐などの自律神経が活性化した時の症状.
- 心臓病がない.
神経調節性失神は決め手となりえるような薬物治療はないため、誘発要因を避ける(混雑した場所をさける、過度な厚着をしないなど)、前兆となる症状が表れたら直ちに横になる、などの注意が必要でしょう。
注1:状況失神とは特定の誘発因子に続いて起こる失神のことです。
嚥下、排便、排尿、運動後、食後、咳、くしゃみなど。
参考文献
Eur Heart J 2018; 39:1883-1948.