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結の浜でチヌ釣りー小さな悲劇の物語ー

[2023.03.27]

本格的な冬を迎える前の2022年11月中旬、晩秋のコロダイとヨコスジフエダイを釣り上げた池島の堤防を去る時に、私は堅く決意をしました。冬は今まで経験してこなかったルアー釣り(ルアーとは疑似餌のことです)を本格的に開始し、ブリを釣るぞ、と。そのため、メタルジグやミノープラグの幾つかと専用のロッドを購入したことは事実です。釣りヴィジョンのメタルバスターという番組の沼田純一さんを勝手に師匠と考え、夜な夜な座学に励んでいたことも事実です。でも、今回の冬は寒すぎました。寒風の中に身を晒すことが激しく躊躇われました。さらに2月は歯痛にも苦しみ、ロキソニンが手放せず、うどんとお粥の日々が続き、体重が3Kgほど減って、とても釣りどころではありませんでした。

 

こうして無為に時を刻み、とうとう3月の声を聞く羽目となって、私の本能がささやいたのです。そろそろ乗っ込みのチヌ(産卵を控えて、岸近くで暴飲暴食するチヌ)、あわよくばマダイを釣らんといけんじゃねえ。もちろん投げ釣りで。

 

3月下旬15時30分、小雨がぱらつくなか、私は出発しました。目指す場所は結の浜マリンパークに隣接している堤防です。この堤防は初めて行く場所です。眼前には上ノ島と下ノ島を臨み(図1)、沖合には養殖いけすが散在しています(図2)。いかにもチヌが好みそうな海の雰囲気がありました。堤防の手前は潮の流れが殆どなくて、魚道はおそらく沖合、すなわち遠投有利と考えられました。途中でふたりのルアー釣りの青年とお互い“こんにちは”と軽快に挨拶をして、私は迷わず堤防先端の一段と高いところに釣座を構えることにしました。漁港に入っていく方向、島の方向、および海水浴場の方向とそれぞれ異なる流れを捉えることができると踏んだためです。しかしながら、高い場所を選択したことが後の悲劇につながっていきます。

 

潮廻りは中潮で、18時頃から釣り開始。天秤(鉛の材質)が着底するまで、3秒くらいで、水深は5m前後です。底は基本的に砂地であり、時々、海藻がひっかかってきます。根がかりで仕掛けを失うリスクはまずなさそうでした。用いた餌は通販の岩虫。竿は3本、道糸はPE4号、ナイロン8号×2で、ハリス(釣り針を結ぶ糸)はフロロカーボン10号を選択しました。チヌ釣りにはオーバースペックですが、夜は魚も十分に仕掛けを視認できないためか、太いハリスを選択しても問題なく食ってきます。問題は魚が廻ってきてくれるかどうかだけです。

 

19時を少し廻ったところで、左側の竿のリールのドラグ音がなり(ドラグとは魚の引っ張りに応じて、リールの糸が出ていく仕組みの事です)、合わせを入れましたが空振り。さらに立て続けに正面の竿のドラグ音が響きましたが、また、空振り。さらにもう1回空振り。WBCで不調に苦しむ村上くんのようでした。そこで、私も考えました。まだ春先で、海の中は冬を引きずっており、変温動物である魚たちの食欲はあまりないであろう。そのため、食いも浅く、岩虫を咥えて走ってもすぐに違和感を感じ、餌を離してしまうに違いない。よって、作戦変更です。ドラグをしめて、道糸を固定することにしました。魚が餌をついばむ手ごたえを感じで、合わせのタイミングを計るためです。ドラグを締めると大型魚が餌を咥えて滑走した場合は、竿ごと海中に吹っ飛ぶリスクはありますが、まだ低水温であるため、魚もそこまで元気ではなく、そのリスクは小さいという判断もありました。

 

システムを変更して沈黙の1時間あまりが経過した時でした。海水浴場の方向に投げた右側の竿が勢いよく触れて、今回は針がかりが決まって、尾びれと胸びれが青みを帯びたきれいな塩焼きサイズのマダイを確保しました。その後は、ふたたび沈黙の1時間20分が経過した21時20分。正面の竿にこつこつとした小魚のような小さなあたりが、5-6回ほど繰り返されています。竿を手にとって、そっと手前に引いてみるとぐいっと反対方向に引っ張る手ごたえがあって、キビレチヌ:40Cmを確保することができました。堤防の高さがあり、かつ、満潮時より2時間ほど経過していたため、6mのタモ(魚を回収する器具。伸長する棒とその先端に装着された枠つきの網から構成されます)がどうにか届く距離でした。ラッキーでした。図3はチヌ、図4はマダイとチヌの写真です。

 

22時を廻ったところから雨の降る間隔が短くなり、かつ、雨脚も若干、強くなってきたようでした。そろそろ撤収しようかな、と思案をめぐらしていた時でした。前触れなく正面の竿先が鋭く触れて、またもとの位置にもどりました。半信半疑で合わせを入れると魚の手ごたえ。前回よりも引きは強かったのですが、海面に表した姿はやや小ぶりでした。しかし、ここで問題が起こりました。さらに潮が引いていたため、タモが届かないのです。せいいっぱい腕をのばしても網が海面を掠るだけ。そこで一段低い堤防に魚を誘導して、タモ入れを試みた時に、悲劇は起こったのです。雨で手がぬれていたため、滑って、タモが海中に落下したのです。これは救急や、というわけで、間髪を入れずに魚をぶりあげ、前回よりもやや小ぶりのキビレチヌが堤防上で踊っていました。すぐに魚を締めて、今度は針を落下させて、タモ網に引っ掛けようと試みること複数回。やっと針が網に絡まり、タモを無事に釣り上げることができました。太い仕掛けでよかったです。

 

帰りはリンガーハットの終了間際に滑り込み、暖かいちゃんぽんを食することができました。キビレチヌとチヌは産卵時期が異なるため、今回のキビレはふだんよりこの海域を回遊している魚でしょう。キビレチヌはムニエル、塩焼きとチヌご飯で、タイは鯛茶飯で食べました。おいしかったです。わたしの料理の腕がいいので、チヌでもおいいしいの、と妻は述懐しております。反省点として、次回はより遠投できるシステムにすることと、安全性を考慮して一段低い堤防から釣ろうと思っています。当たり前ですが、魚より命、ですからね。

 

図1:上ノ島と下ノ島を臨む

図2:沖合の養殖いかだ

図3:キビレチヌ40Cm

図4:キビレチヌとマダイ

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