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よくある患者さんの質問:その薬、一生、のまないと・・・

[2021.05.11]

“いったん薬を飲みだしたら、ずっと(一生)飲まないといけませんか?”あるいは“薬を飲みだしても、やめることはできますか?”。高コレステロール血症、糖尿病、高血圧に対して、薬物治療を提案した時に、しばしば患者さんが口にする質問です。根底にはできたら薬は飲みたくない、という気持ちがあるのでしょう。

 

そして、私は思わず、どきっ、としてしまいます。はからずも患者さんに薬物治療という試練?を与える人、のような立場に自分がなってしまっていることへの戸惑いがあるためです。

 

患者さんにとって、明確な症状があれば、薬の服薬も受け入れやすいでしょう。発熱した時の解熱薬、喘息発作時の吸入、胸痛時のニトログリセリンなどです。一方、生活習慣病といわれる病気、すなわち高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などは症状を欠くことが多いため(これらの病気は不幸にも心筋梗塞や脳梗塞を合併してしまったときに、初めて症状として、あらわれるともいえます)、薬を服薬するための動機付けが得られにくいのだろう、と思います。

 

ネットで簡便に医学情報が手に入る時代ですので)、患者さんも治療の必要性に関しては、予め理解されていることが多いと思います。私自身も脳梗塞や心筋梗塞の発症を予防するために、高血圧なら降圧の目標値が、高コレステロール血症ならその人のリスクの高低に応じて(例えば心筋梗塞の既往があったら、高リスクとなります)、LDLコレステロールの目標値が定められていることを説明します。その目標値は現時点での科学的な知見に裏づけられています。

 

では、医学的な根拠では治療すべきとなっている、あるいは、ガイドラインではこうなっている、という説明だけで、薬をできたら飲みたくないという患者さんが心の底から納得するでしょうか?たぶん納得しないだろう、と思います。血圧値がかなり高い、血糖値がかなり高いなど、即座な治療が必要な方を除けば、時間をかけてもいいので、患者さんに十分に理解してもらって、薬物治療を開始したほうが長続きするようです。外来診療は対話である、と最近、つくづく痛感しています。

 

質問に対する私の回答:生活習慣の改善(肥満の是正、減塩など)と薬物治療は治療の両輪です。生活習慣の改善がないまま薬物治療を行っても、十分な効果が得られず、いたずらに薬の量だけが増えていく結果にもなりかねません。逆に述べれば、食事内容の見直し、運動などにより、薬の減量、中止が可能となることも稀ではありません(特に高血圧と糖尿病)。しかしながら、治療の開始時に将来、薬を中止できるか否かに関して、正確に予想することは困難であり、あくまでも治療開始後の経過によります。最後に私はおそらく患者さんと同様に、薬物治療を開始してもその後の病気のコントロール状態がいいようでしたら、常に薬の減量、中止を考えていることを申し添えたいと思います。

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