新型コロナウイルス感染症と心臓病
心臓病、および高血圧と糖尿病などの生活習慣病は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者さんの死亡リスクを高めるとされています。また、9806例のCOVID-19患者が発生した2020年2月21日から3月31日まで期間の院外心停止例が2019年の同期間に比べて、約58%増加したというイタリアからの報告もあります。今回はCOVID-19と心臓病のかかわりに関して現在、知られている事実と患者さん自身が知っていたほうがいい注意点を述べてみたいと思います。
COVID-19と心臓病の増悪:心臓病の患者さんは程度の差異こそありますが、心臓に対する負荷を抱えている方が殆どです。また、心臓のポンプとしての働きが低下している方もおられます。COVID-19が心臓病を悪化させる機序を下記に示してみます。
- 肺炎による低酸素血症が是正されない時、低酸素血症そのものが心機能を抑制する可能性が考えられます。
- 感染症ではいろんな臓器の酸素需要が増大します。そのため、重症の感染症では、より円滑な循環の維持が必要です。すなわち、心臓には平常時にくらべて、よりたくさん働いてもらわなければなりません。一方、心臓病の患者さんは心臓病がない方に比べて、心臓の余力が乏しいため(過剰の負担には応じられない)、生体が必要な量の血液を心臓から送られなくなることもありえます。そのため、心臓自身も疲弊すると同時に、円滑な血液供給ができないことによる多臓器の機能低下がおこりえる、と考えられます。
- COVID-19による心筋障害が報告されています。心筋障害はCOVID-19患者の死亡リスクを高めることが知られています。心筋障害の機序としては新型コロナウイルスによる直接的な心筋障害と先に述べた循環不全による心筋障害が考えられます。
- 感染による脈拍の増大や交感神経の活性化は、血管に対してもストレスを与えます。血管自体の炎症も起こりえます。また、重症の感染症では血栓形成のリスクも高くなります。そのため、心筋梗塞や脳梗塞などの既往がある方では、その再発リスクが高くなることが考えられます。
- 感染症による心臓への負担が大きくなると特に頻脈性の不整脈が誘発されやすくなります。不適切に脈拍が速くなると心臓への負担がさらに増大します。また、直ちに停止させないと生命に関わる不整脈もあります。
COVID-19と心臓病の発生: COVID-19による心臓病の発生は、特にご高齢の方や生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の患者さんでは注意が必要です。
- インフルエンザでは発症後1週間以内の急性心筋梗塞の発症リスクが高まります。COVID-19でも血管へのストレスの増大、および動脈硬化巣での炎症の活性化などにより、心筋梗塞の発症リスクが高まる可能性があります。この点に関しては、今後の疫学調査によって、明らかになるものと思います。
- 新型コロナウイルスが直接、心筋に感染する急性心筋炎の報告があります。また、急性心筋梗塞に似た心電図変化を認めたにも関わらず、冠動脈(心臓を養う血管)には閉塞を認めなかった報告もあります。そのような例での死亡率は実に90%にも及びCOVID-19の経過中に合併した急性心筋梗塞例での死亡率:50%よりも高いものでした。急性心筋炎はCOVID-19の注意すべき合併症のひとつと考えられます。
患者さんが気をつけること:まずは感染しないことが重要ですので、密閉、密集、密接を避ける、マスクの着用、手洗いなどは基本です。そのうえで大切なことを述べてみたいと思います。
- 重篤な心臓病の症状は、突然の胸痛、呼吸困難、失神です。このような症状は急性心筋梗塞、心不全の増悪、ショックあるいは危険な不整脈を示唆するため、、ただちに病院を受診することが必要と思います。
- もともと心臓病がある方では、心臓を安定した状態にしていることが、感染予防と感染した時にたたかえるためには必要です。症状の悪化(息切れがしやすくなった、体重が急に増えた、胸痛の頻度が増えたなど)が認められたら、早めにかかりつけ医に相談しましょう。
- 体調が悪い時は仕事を休む勇気を持ちましょう。この点は事業所の理解も必要と思います。現在では、感染させないためにも発病しないためにも、微熱でも出勤したらいけない、と思います。
- 生活習慣病を適切にコントロールしておきましょう。このことは心筋梗塞や脳梗塞の予防(新規発症の予防、再発の予防)の観点から極めて重要です。
- 過食をさけ、体重を定期的にチェックしましょう。自粛の影響か短期間で体重が2-3Kgほど増加した人がおられます。急な体重増加は糖尿病のコントロールを難しくし、塩分摂取量も多くなるため、血圧も上がりやすくなります。
- 禁煙しましょう。喫煙者は非喫煙者に比べて、COVID-19による死亡リスクが1.79倍、増大します。
- 適切な運動をしましょう。3密をさけるために、家に閉じこもってばかりいる方がおられます。長崎市では散歩すら危険、という感染状況ではありません。できる範囲の運動は心臓病がある人にとっても、ない人にとっても、心臓を健やかに保つために必要です。そして、運動は免疫能をアップさせるためにも有効です。
COVID-19と心臓病の関係について、知りえた範囲を書いてみました。これからも新たな重要な事実が判明しましたら、随時、お知らせしたい、と思いますので、よろしくお願いします。
参考文献
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- J Am Coll Cardiol. 2020 ;75(18):2352-2371.
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- N Engl J Med. 2020 May 1. doi: 10.1056/NEJMoa2007621. [Epub ahead of print]
- N Engl J Med. 2020 Apr 17. doi: 10.1056/NEJMc2009020. [Epub ahead of print]
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