降圧薬のよりよい服薬時刻はいつ?
冠攣縮性狭心症という病気があります。心臓を養っている血管=冠動脈がけいれんすることにより一過性に血流が低下し、狭心症発作が誘発されます。就眠中の深夜や起床後の間もない時間帯に発作がおこりやすい特徴があるため、就眠前に冠動脈のけいれんを予防しうるカルシウム拮抗薬や冠拡張薬の投与が、発作のコントロールに極めて有効です。これは服薬時刻が病気のコントロールに密接に関わっている代表的な例です。
高血圧ではどうでしょうか?殆どの降圧薬は長時間作用型であり、1日1回の投与ですむように設計されています。しかしながら、その降圧薬をいつ服用したら、患者さんにとってより効果が得られるのか、いいかえれば、より高血圧の合併症を抑制できるのか、という点について検討した報告はあまりありません。最近、スペインの医師らが、降圧薬を起床時に服用した場合と就眠時に服用した場合を比較し、瞠目すべき結論を得ていますので、御紹介しましょう。
起床時服薬群:9552例と就眠時服薬群:9532例が検討の対象となった高血圧の患者さんです。なお、勤務時間帯が一定ではない方は検討の対象から予め除外されています。高血圧の診断と降圧効果の判定を48時間に及ぶ自由行動下血圧(ある一定の間隔で自動的に血圧を測定しています)によってなされている点が研究の特徴のひとつです。すなわち、高血圧の診断および降圧効果の判定が通常の診察室血圧によってなされる場合に比べて、より正確であるといえます。経過観察期間の中央値:6.3年でした。
降圧薬の就眠時内服は起床時の内服に比べて、高血圧による合併症のリスクを以下の点で劇的に改善しました。
- 経過観察期間中の死亡のリスクを45%、そのうち心筋梗塞や脳卒中などの心血管病による死亡のリスクを56%も低下させました。
- 虚血性脳卒中(脳梗塞)と脳出血のリスクをそれぞれ46%、71%低下させました。
- 心筋梗塞のリスクを34%、心不全のリスクを42%低下させました。
著者らは過去に治療歴のない高血圧の患者さん、また心血管病の既往のない高血圧の患者さんで、より良好な効果が示された、と述べています。
ほぼ同じ薬を服用しているにも関わらず、服薬時刻によって高血圧患者さんの予後に大きな差異が生まれるという事実は、驚くべきことだと思います。就眠時内服例は起床時内服例に比べて睡眠中の収縮期血圧、拡張期血圧ともにより低値でした(収縮期血圧:114 mmHg vs. 118 mmHg; 拡張期血圧:64.5 mmHg vs. 66.1 mmHg)。すなわち、睡眠中のより大きな降圧効果が、降圧薬を就眠時に内服した患者さんの良好な予後に結びついたのであろう、と著者らは述べています。
最後に注意点として、この研究は白人の高血圧患者さんを対象にしているため、この結論をそのまま日本人に適用できるとはかぎりませんが、ふだんの高血圧の外来診療に大きなインパクトを与えうる論文といえるでしょう。
参考文献
Eur Heart J 2019 Oct 22. pii: ehz754. doi: 10.1093/eurheartj/ehz754. [Epub ahead of print]