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トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)

[2026.01.16]

心アミロイドーシスはアミロイド線維という異常なタンパク質の凝集体が、心臓の間質(心筋細胞間の隙間)に蓄積し、難治性の心不全や多彩な不整脈(心房細動、房室ブロックなどの伝導障害、心室頻拍など)を合併してくる病気です。心アミロイドーシスは血液疾患に伴って異常な免疫グロブリン軽鎖が原因となるAL心アミロイドーシスとトランスサイレチン(甲状腺ホルモンやビタミンA=眼に関係を搬送する役割を果たすタンパク質)が構造上の異常をきたして、アミロイド線維を形成するトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)に大別されます。ATTRは遺伝子変異を伴う変異型心アミロイドーシス(ATTRv-CM)と遺伝子変異を伴わない野生型心アミロイドーシス(ATTRwt-CM)に分類されます。この10年間、特にATTRwt-CMに注目が集まっています。その理由はふたつあります。

  1. 高い疾患の頻度:画像診断、特に核医学的な画像診断法の進歩により、ATTRwt-CMの有病率が予想以上に高いことが明らかになったことです。心収縮が保たれ、かつ、心肥大を伴う60歳以上の心不全で入院された患者さんの12%にATTRwt-CMを認めたと報告されています。
  2. 有効な薬物治療の登場:かつてはATTRwt-CMは予後が不良な疾患と考えられていましたが、新たな薬の登場により、生命予後が改善してきています。この点に関しては、後述します。

 

医師はどんな時にATTR-CMを疑うのか?:心肥大を認める60歳以上の難治性の心不全患者を診たら、ATTR-CMを疑う必要があります。利尿薬と心保護薬を組み合わせた標準的な心不全治療を行っても、なかなか、心不全がコントロールできない(薬に対する反応が不良)、症状を伴う低血圧を起こしやすい、腎機能が悪化しやすい、などの治療を難渋させる厄介な特徴があります。

 

アミロイド線維は心臓に蓄積する5-10年前から、じん帯に蓄積してきます。そのため、両側性の手根管症候群、特発性じん帯断裂、脊柱管狭窄症などの既往歴のある60歳以上の心不全患者に関しては、ATTR-CMを疑うべきとされています。

 

クリニックで活用できる主な生理機能検査は心電図と心エコーです。1.心エコーでの心肥大(心室中隔の厚さ:12mm以上)を認める一方で、心電図で心肥大の所見を欠く、および2.前壁心筋梗塞に類似した心電図所見は、ATTR-CMを疑う有力な根拠となります。また、高齢の大動脈弁狭窄症の13.6%の患者さんにATTR-CMを合併しているという報告もあります。

 

クリニックでATTR-CMを疑った患者さんは基幹病院に紹介し、ATTR-CMの診断プロセスを踏むことになります。1.血液疾患によるAL心アミロイドーシスの否定→2.核医学的検査±心筋生検(病理学的検査)が陽性所見→3.遺伝子検査によるATTRv-CMとATTRwt-CMの鑑別が一般的な診断プロセスとなります。

 

疾患修飾薬:疾患修飾薬はATTR-CMの生命予後の改善効果があり、最初の薬は2018年に報告されたタファミジスです。タファミジスはトランスサイレチンの構造変化(アミロイド繊維化)を抑制し、偽薬と比べて30か月の経過観察期間中の死亡率を低下させています(29.5% vs 42.9%)。アコラミジスは同様な機序と効果を示す薬です。

 

ブトリシランは肝臓でのトランスサイレチンの合成を抑制することにより、トランスサイレチン型アミロイド線維の産生を低下させます。ブトリシランは偽薬と比べて、42か月間で35%の死亡リスクの低下を示し、かつ、すでにタファミジスが投与されていた例での良好な効果も示唆されています。タファミジスとブトリシランの併用効果が今後の検討課題となるかもしれません。

疾患修飾薬は心不全の症状が軽い段階での投与が、より効果が高いとされています。よって、ATTR-CMの患者さんを早期に発見することが、心臓病を専門とするクリニックの役割のひとつと考えています。

 

参考文献

  1. JAMA 2024; 331:778-791
  2. N Engl J Med 2018; 379:1007-1016
  3. N Engl J Med 2025;392:33-44
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