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2型糖尿病とインスリン治療ー新しいインスリン製剤の可能性も含めてー

[2023.07.04]

糖尿病はインスリン分泌が絶対的に不足し、インスリンの投与が必要な1型糖尿病とインスリン分泌の低下、インスリン抵抗性および両者の混在を病因とする2型糖尿病に分類することができます。インスリンの分泌は1日を通して分泌される基礎分泌と食事を摂ることによって分泌される追加分泌があります(図1)。

図1:インスリンの分泌パターン

 

2型糖尿病でもインスリン投与が必要な場合があります。私がインスリン治療を選択する主な理由は下記のふたつの場合です。

1.糖尿病の飲み薬だけでは、血糖コントロールが不良な場合

2.糖毒性(高血糖のため、インスリンの分泌と作用がともに障害され、悪循環状態にあること)を速やかに解除したい場合

特に1の理由によるインスリン治療の併用が多いです。

 

インスリン治療が必要な理由を患者さんに説明しても、難色を示す場合がしばしばあります。薬を飲むだけとは違って、自分で決められた量を正しくセットして、皮下に注射しなければならないという事、および自己血糖測定を併用する場合が殆どである事などが心理的なハードルをあげている側面があるように思います。

 

2型糖尿病におけるインスリン療法は基礎分泌を補う持効型インスリン(作用時間:約24時間)の1回投与に落ちつく場合が多いように思います。代表的な持効型インスリンであるグラルギンと週1回の投与が可能な超持効型ともいえるアイコデクのそれぞれが血糖値およびヘモグロビンA1C(HbA1C:過去1-2月の平均血糖値を反映します。糖尿病の診断やコントロール状態の指標で、糖尿病による合併症を予防するための目標値はHbA1C <7 .0%です)に及ぼす効果を比較した臨床治験の結果が報告されましたので、御紹介します。なお、アイコデクは治験中の薬であるため、現在、日常の診療では使用できません。

 

対象はHbA1C:7-11%で、インスリン治療歴のない2型糖尿病患者さんで、アイコデク群:492例とグラルギン群:492例です。インスリン導入前のHbA1C値はアイコデク群:8.50%、グラルギン群:8.44%と同程度でした。52週が経過した時点での効果が主要な評価項目です。結果を下記に示します。

  1. 投与前からのHbA1Cの変化量はアイコデク群:-1.55%, グラルギン群:-1.35%とその差は-0.19%で、アイコデク投与によるHbA1Cの低下の効果が大でした。
  2. 血糖コントロールの目標である血糖値:70-180 mg/dLを達成できた時間/観察期間の全時間はアイコデク群:71.9%, グラルギン群:66.9%と良好な血糖コントロールを維持できる割合もアイコデク群で高値でした。
  3. 83週の時点での患者ひとりあたりの懸念される低血糖の頻度は、アイコデク群:0.30回/年,グラルギン群:0.16回/年とアイコデク群で高値でした。この点に関して、著者らは国際的に許容される低血糖の頻度をともに下回っていると述べています。また、アイコデク群の低血糖の回数:226回のうち3人の患者さんに認めた低血糖の回数が105回あって、この3人がアイコデク群の低血糖回数を押し上げたとも述べています。

 

アイコデクはグラルギンに比べて効果が大であり、かつ、副作用は同程度と著者らは結論しています。たしかに週に1回で済むインスリンの投与はインスリン治療に対する患者さんの心理的なハードルをかなり押し下げる効果があるでしょう。ただこの論文にも述べられた3人の患者さんに認められたように、効果の持続時間が長いことによる遷延する、あるいは繰り返される低血糖のリスクにも十分に注意する必要があるように私は思いました。

 

参考文献

N Engl J Med. 2023 Jun 24. doi: 10.1056/NEJMoa2303208.

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